教師をもう続けられない…3万人が残業隠しの「変形労働時間制」に悲鳴と怒り〈AERA〉
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2019/10/19(土) 7:00配信AERA dot.
教師をもう続けられない…3万人が残業隠しの「変形労働時間制」に悲鳴と怒り〈AERA〉
〔写真〕今月8日に開かれた、変形労働時間制導入の撤回を求める院内集会には、与野党の議員や教員など約100人が集まった(撮影/写真部・小黒冴夏)
全国の教員たちが、過労死ライン超えの長時間労働にあえぐ。改善策として今国会で審議されるのが変形労働時間制だ。だが、「教職を続けられない」と悲痛な叫びが相次ぐ。
【グラフ】「変形労働時間制」で働き方はこうなる! https://dot.asahi.com/print_image/index.html?photo=2019101800108_2
「変形労働時間制が導入されたら、子育てとの両立は不可能。教師の仕事は辞めざるをえなくなります……」
そう不安を漏らすのは、来春、育休復帰を予定している都内の小学校教員の女性(30)だ。小学校教員の3割、中学校教員の6割が過労死ライン超えの長時間労働にあえぐなか、国が導入しようとしているのが「1年単位の変形労働時間制」だ。
授業のある忙しい時期の定時を延ばす代わりに、夏休みなど「閑散期」の勤務時間を短くすることでたっぷり休めるようにする。仮に終業時間が17時だとすると、繁忙期は最大19時まで延長され、その分、閑散期は15時に退勤できたり、数日間まとめて休めたりする。
ところが、子育て世代の教員たちからは困惑の声が相次ぐ。一般的に保育園の預かり時間は18時台まで。延長しても19時〜19時半ごろのため、19時近くの退勤では迎えの時間に間に合わない。先の女性教員は言う。
「同世代の30歳前後は採用人数が多く、いま出産、子育て期に入っています。変形労働時間制が導入されたら、大量退職せざるをえなくなり、公教育は成立しなくなるのではないでしょうか」
これに対し文部科学省は「4、6、10、11月の繁忙期の計13週について、勤務時間を週3時間増やし、その分、夏休み期間中の8月に5日間休むイメージだ。子育てや介護中の教員への配慮は大前提にしている」と言うが、実効性があるかはわからない。
9月中旬、「変形労働時間制の撤回」を求める緊急ネット署名を「斉藤ひでみ」のツイッター名を持つ高校教員の西村祐二さん(40)と、「全国過労死を考える家族の会」の工藤祥子さん(52)が開始。すると、わずか3週間で3万筆以上が集まり、今月8日、院内集会も開いた。
教員たちの怒りの矛先は、実態とかけ離れた「閑散期」という発想に向かう。内田良・名古屋大学大学院准教授は、国が各月の勤務実態の統計を取ることなく変形労働時間制の導入を目論んでいることを問題視する。
「教員に閑散期はありません。月ごとの勤務時間のデータを集めると、研修や部活の大会、行事の準備などに忙しく、夏休みも残業しています」(内田准教授)
教員だった夫を過労死で亡くした工藤さんは次のように語る。
「夫が亡くなったのは6月でした。教員の過労死は5月から7月に多く、夏休みにまとめて休めるといっても、そこまで持ちません」
グラフにあるように変形労働時間制によって「見かけの残業時間」は減るが、働く時間そのものは変わらない。「抜本的解決につながらない」と日本教育学会会長の広田照幸・日本大学教授は指摘する。
教員の給料は40年以上前に制定された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)によって、月給の4%にあたる調整金がつく代わりに残業代が支払われない。このことによるコスト意識の欠如が、長時間労働を招いている。しかし残業代を支払うとなると、年間で約9千億円が必要と試算されている。
「教員の働き方を改善するには、給特法を改正し残業代をきちんと支払う。それができないのであれば教員の大幅増員か、業務の大幅削減をすべき」(広田教授)
変形労働時間制が教員の仕事をさらに長時間化させる懸念もある。前出の西村さんは言う。
「学校にいる時間が長くなれば、そこに新たに会議や部活を入れられ、肝心の授業準備は後回しになってさらに長時間化するリスクがある」
2020年度から学習指導要領が変わる。小学校では英語やプログラミング教育の本格導入に向け、新たな準備も必要だ。子どもたちが「質の高い学び」を得るために必要な働き方改革は何か。数字合わせではない、実効的な施策が求められる。
文/編集部 石田かおる