仏、黄色いベスト運動1年 反マクロン「弱者切り捨て」 続くデモ、不満なお
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東京新聞 2019年11月17日 朝刊
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【パリ=竹田佳彦】フランス全土に広がった反政府デモ「黄色いベスト運動」が十七日で開始から一年を迎える。マクロン大統領は国民に寄り添う姿を示して対応策を打ち出してきたが、毎週土曜日のデモは現在も続いている。
五十三回目のデモがあった十六日、パリ市内は黄色いベスト姿の市民が街頭に繰り出し「マクロンは辞任を」と声を上げた。一部では参加者が路上のバリケードに放火。治安部隊が催涙弾を発射するなど緊張に包まれた。「求めてきた購買力向上は実現していない」と介護職員ルイーザ・ガマさん(50)は語気を強めた。
昨年十一月十七日の一回目の参加者は二十八万七千七百人。約二カ月間で延べ百万人を超えた。一九六八年の「五月革命」以来の社会運動に拡大した。
運動は当初、日常生活に車が欠かせない地方で、燃料価格高騰への抗議として始まった。交差点に集まった市民は生活の苦しさを話し合い、政府を批判。通り掛かる住民らに賛同と支援を呼びかけた。運動は労働組合や政党による動員ではなく、ソーシャルメディアを通じて拡大した。
政府は今年一月から約八十日かけて、国民の声を直接聞く「国民大討論」を全国で開催した。マクロン氏も十六回参加し、最長で八時間以上にわたり、首長や若者らと意見を交わした。
しかし、事前に質問項目や発言者を選んだことで「パフォーマンス」と見なされた。減税策なども「別の税金が上がるだけ」と冷ややかに受け取られた。
マクロン氏は二〇一七年の就任以来「金持ちの味方」とのイメージが付きまとう。仏企業の競争力向上を目指した労働法改正は「企業が労働者を解雇しやすくなる」と反発を受けた。
十四日に任期の折り返しを迎えたマクロン氏の支持率は36%。昨年十二月の23%から改善したが、当選直後の62%に遠く及ばない。
フランスでは、人員や財源不足による病院・病床の閉鎖が相次ぐ。学校も再編などの影響で閉校が続く。
政府は今年、農家保護のため、スーパーなどでの食品の割引率を最大70%から34%に制限した。安売りの減少は低所得者層を直撃し、国による切り捨てと感じる住民の不満がくすぶる。
市民団体の連合組織で代表を務めるジャンクロード・ブアルさん(74)は「社会の問題はなにも解決していない。孤立を深めていた住民は、運動参加で社会とのつながりと尊厳を取り戻した。運動はまだまだ続くのではないか」と話した。