厚生年金「106万円の壁」残る 中小、人手不足の懸念 (12/9)

厚生年金「106万円の壁」残る 中小、人手不足の懸念
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2019/12/9 23:30日本経済新聞 電子版

公的年金改革で焦点だったパート労働者の厚生年金加入を巡り、厚生労働省は適用対象を中小企業に広げる。ただパートにとって関心の高い月8.8万円(年収106万円)以上という賃金の要件は今回の改革では変わらない。保険料の支払いを避けるために就労時間を抑える「106万円の壁」という制度のひずみは残り、中小企業では人手不足がより深刻になるとの懸念もある。

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厚生年金に加入して年収に応じた保険料を払い込むと、国民年金(基礎年金)に上乗せした年金が将来もらえる。新たに加入して月8000円の保険料を1年間払うと、将来の年金額は月500円増える計算だ。

2019年夏から本格化した年金制度改革の議論で、厚労省はパートへの適用拡大を柱の一つにした。働き方の違いで老後の生活を保障する年金に差が出ないようにするためだ。

労働時間が週40時間よりも短い短時間労働者の加入要件は原則として、(1)従業員数501人以上の企業に勤務(2)週20時間以上働く(3)月収8.8万円(年収106万円)以上――のいずれも満たす必要がある。

このほどまとまった見直し案ではこのうち企業規模の要件を見直す。2022年10月に従業員101人以上の企業に対象を広げ、24年10月からは同51人以上にする。厚労省はこれによって新たに65万人が厚生年金に加入するとはじく。

今回の改革議論で賃金要件の引き下げも検討課題になったものの、厚労省は最低賃金が年3%のペースで上がり続けていることなどから見直しは不要と判断した。

今の最低賃金は全国平均が時給901円。週に25時間程度働くと、月8.8万円という厚生年金に加入する賃金要件を満たす。5年前の最低賃金では週に29時間程度、働く必要があった。賃金が上がると厚生年金適用のハードルは下がる。

ただし、労働時間や賃金の要件は今のままだと厚生年金に入らないように就労時間を調整するパートが続出する可能性がある。

年収が106万円に届いたパートは、厚生年金と健康保険の保険料を負担する必要がある。厚生年金の保険料率は収入の18.3%。本人と勤め先の企業が折半で負担する。日本総合研究所の試算では、これによりパートの手取りは年間約14万円減り、同じ手取りを確保するには年収を約123万円まで増やさなければならない。足元の収入だけみると、より長い時間働いても「働き損になる」という状態が生じる。

だが特にこれまで国民年金の保険料が免除されてきた会社員の配偶者(第3号被保険者)は保険料負担への抵抗感が強い。日本総研の西沢和彦主席研究員は「パートの専業主婦にとっては将来の年金よりも目先の生活費や教育費の方が重要なことも多く、就業調整をする人が増える懸念がある」と指摘する。

日本フードサービス協会(JF、東京・港)などパート比率の高い食品関連の7団体は11月下旬、人手不足が深刻化するとして適用拡大に反対する声明を出した。

保険料の事業主負担を避けようと、企業側が対策をとる懸念もある。厚労省が19年に実施したアンケートでは、企業がパートの勤務時間を調整して厚生年金の適用対象にならないようにする「適用回避行動が一定数あった」という。

「106万円の壁」を撤廃するには第3号被保険者のあり方を含めて議論する必要があるが、今回の年金改革で手をつけることはできなかった。夫が会社員で妻が専業主婦という世帯の比率が低下していく中、宿題が残った形だ。 

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