先進国でも日本は突出! 働く「ひとり親」の貧困率は5割以上
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2019/12/24(火) 6:11配信 NIKKEI STYLE
先進国でも日本は突出! 働く「ひとり親」の貧困率は5割以上
兵庫県明石市のホームページ
《連載》デンシバ Spotlight
今年は与党で、未婚のひとり親を支援する税制改正が議論になりました。結婚していたひとり親に比べて損をする制度を見直そうという動きです。両者の格差是正も大切ですが、底流にあるのは、ひとり親家庭に貧困が多い問題です。世界でみても特殊な日本の労働状況も潜んでいます。
ひとり親家庭の8割超を占める母子家庭を中心に見てみましょう。2016年の厚生労働省の推計では、母子家庭は123万世帯あります。30年間で1.5倍になり、最近は横ばいです。子どもがいる世帯のうち、だいたい10世帯に1世帯が母子家庭です。8割が離婚で、未婚と死別が1割弱ずつです。
経済的には厳しい状況です。母子家庭で母親が働いて得る平均年間収入は200万円です。離婚(205万円)、未婚(177万円)、死別(186万円)とも多くはありません。持ち家率は低く、預貯金は「50万円未満」の人が4割です。
世界でみると、日本のひとり親家庭は「働いても貧困」という特殊な状況にあります。日本のひとり親の就労率は8割にのぼり、経済協力開発機構(OECD)のデータに登録されている国では上位にきます。しかし、働いているひとり親の貧困率は5割を超え、世界で突出して高い値となっています。なぜなのでしょうか。
■男女格差、正規・非正規格差で「二重の格差」
「日本のシングルマザーは男女の賃金格差、正社員と非正規の賃金格差という『二重の格差』の中で働いているため」と、千葉大学の大石亜希子教授は話します。大石教授の研究によると、シングルマザーの労働時間は、非正規でも、働き盛りの成人男性とほぼ同じです。「すでに十分な時間働いている。就労促進による自立支援は限界がある」と大石教授は言います。
改めて注目されているのが養育費です。日本は、別れた父親から養育費を受け取っている母親はおよそ4人に1人だけです。欧米では、別れた親が養育費を払わない場合、行政が介入し徴収したり、行政が立て替えたりする制度があります。日本では国レベルの制度はなく、基本的に「親任せ」です。
こうした状況に一石を投じているのが兵庫県明石市です。養育費が払われない場合、市が立て替え、市が回収するという仕組みを検討しています。同市は「日本は、親が離婚した子への支援が欠けている」という問題意識から、対策を進めているそうです。
母子家庭の貧困は、そこで暮らす子どもの貧困を意味します。日本の将来を担う子どもたちがよりよい環境で育つよう、状況を改善する様々な手立てが必要とされています。
■大石亜希子・千葉大教授「次世代を社会で育てる視点を」
日本のシングルマザーの労働状況について、千葉大の大石亜希子教授に聞きました。
――シングルマザーはどのくらい働いているのでしょうか。
「日本のシングルマザーの就労率は、先進諸国の中でも特に高く、労働時間も長いです。正社員の場合はもちろんですが、パートなど非正規社員の場合でも、シングルマザーは年間2000時間近く働く人が多いです。働き盛りの成人男性と同じレベルです」
――なぜ働いても貧困なのでしょうか。
「結局は賃金が低いのです。日本の女性正社員の時間あたり賃金は、男性正社員の7割ほどです。さらに女性非正規社員の時間あたり賃金は、男性正社員の半分ほどです。この二重の賃金格差があるために、年間2000時間働いても満足な収入が得られていません。しかも長時間働けば、家庭で子どもをケアする時間が減ってしまいます。就労促進による自立支援には限界があるといえます」
――日本が就労促進に力を入れたのはいつごろでしょうか。
「1990年代に米国や英国で進んだ福祉改革の動きを模倣した経緯があります。米国では『未婚のシングルマザーが働かず福祉依存になっている』と問題視され、減税と現金支給を組み合わせた『給付付き税額控除』の導入など、働く意欲を高める改革が進みました。日本も同時期に離婚が増え、児童扶養手当の受給者が増えていたことから、財政支出の抑制のため、米国を見習いました。しかし日本はシングルマザーの就労率がもともと高いうえ、賃金格差が大きく、米国とは労働状況が異なることを無視していると思います」
――母子家庭の貧困にはどのような対策が必要だと思いますか。
「養育費の不払いへの対応は必要でしょう。ただ、どの国でも離別する父親は経済的な問題を抱えていることも多いので、養育費に期待をかけすぎるのがいいとは思いません。子どもの貧困が家庭内の問題として片付けられ、国が子どもを育てるという意識が薄れてしまう可能性があります。児童手当など、子育てする人に直接届くお金を増やすことが大切です。出生数の減少が続くなかで、次世代を社会で育てていくという視点が必要ではないでしょうか」
(福山絵里子)