「同期は皆、目が死んでいた」 新任教諭つらい毎日、研修は叱責続き (1/8)

「同期は皆、目が死んでいた」 新任教諭つらい毎日、研修は叱責続き
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2020/1/8 6:00 西日本新聞 社会面 金沢 皓介

〔写真〕「自分の居場所は教室しかない」。女性のように教育現場に息苦しさを感じる新任教諭は少なくない(本文とは関係ありません)
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 「研修で久々に集まった同期は皆、目が死んでいた」。昨年春に福岡市内の小学校教諭となった女性から、教育現場の息苦しさを訴える声が特命取材班に寄せられた。いきなり担任を任されて負担は大きい上、授業研修では子どもが聞こえるところで批評されることもあるという。「過重労働」がかねて指摘される教育現場。離職者が目立つ若い教諭をどう支え、育成するか課題となっている。

 教諭は採用後1年間、初任者研修が行われる。福岡市の場合、おおむね週に1こま、校長経験者らが指導教員を務める形で準備段階から指導を受ける授業研修がある。

 「できていないことを詰められるだけで、駄目出しばかりなんです」。女性教諭はそう訴える。

 授業後、複数の指導教員らによって1人30分程度ずつ、個別に講評され「人によって言うことが違う」。女性教諭の授業中、子どもが聞こえるように指導教員らが「こうすべきだ」などと教室の後ろで話し合いをすることも。指導がつらくて涙を流すと「4月から一つも成長していない。涙は甘えだ」と叱責(しっせき)された。

 指導が終わると、次週の研修に向けた準備が始まる。指導案を見せた上、週末はその訂正に追われる日々。係活動や給食など授業以外の学級運営や子どもとの接し方に神経を使う中、「週1回の研修は負担が大きすぎる」と女性教諭は感じている。

 研修の指導方法に対する不満は少なくない。「トイレを磨いて心を磨く」と称し、素手でトイレ掃除を指示された、という声もある。市教育センターによると、年1回、指導教員を集め、コーチングの講習などを行っているが、具体的な指導内容は基本的に各学校に任せているという。

 別の小学校に勤める新人教諭の場合、「学級崩壊状態のクラスの担任をいきなり任された」と打ち明ける。なり手がいないから押し付けられた、と感じたという。「教諭同士の飲み会がきつく、精神的に病んだ新人がいると聞いた。やりがいよりも、きつさが大きい」

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 働き方改革とのギャップに違和感を覚えるという声もある。

 文部科学省の2016年度調査で、小学校教諭の1日平均勤務時間は11時間15分。部活動のある中学校はもっと長い。福岡市教育委員会は1月末までに、福岡市内の小中学校全校でパソコンを使った勤怠管理を始める。

 長時間労働を是正する動きが本格化する中、女性教諭は先輩教諭からこう助言された。「働き方改革と言われているけど、私は早く学校に来るべきだと思う」。その言葉が気になり、女性教諭は必要ないのに早いときは午前6時ごろに登校し、学校を出るのが午後10時を過ぎることもあるという。

 教諭は法律に残業代を支払う規定がなく、労務管理の意識が低下し、長時間労働を招いていると批判されてきた。戦後日本の経済成長を支えた「モーレツ社員」という言葉はもはや“死語”。若手教諭が追い込まれる背景には、仕事と私生活のバランスを巡る考え方の変化、世代間の違いも透ける。

 女性教諭も仕事の厳しさを理解しつつ「自分たちが経験したから、若手も苦しむべきだという考え方はやめてほしい」と言う。

 毎日のように「仕事を辞めたいと思う」という女性教諭。児童との関係は良く「自分の居場所は教室しかない。子どもに迷惑は掛けられない」と踏みとどまっている。 (金沢皓介)
 

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