最低賃金が上がれば自殺率が下がる──26年間のデータを元にした米調査 (1/27)

最低賃金が上がれば自殺率が下がる──26年間のデータを元にした米調査
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2020年1月27日(月)17時00分

松丸さとみ

2017年、アメリカの自殺関連の死亡者数は4万人だった…… baona-iStock

<米エモリー大学の研究者らが過去26年間のデータをもとに行った調査で、最低賃金が上がれば自殺率が下がることが示唆された……>

■時給1ドルアップで自殺率は最大約6%低下

米エモリー大学の研究者らが行った調査で、最低賃金が上がれば自殺率が下がることが示唆された。過去26年間のデータをもとに算出したもので、リーマンショック後の不況時には、最低賃金が時給1ドル(約110円)アップしていたら数万人の命を救えたかもしれないという。米CNNなどが伝えた。

調査を行ったのは、エモリー大学の博士課程で伝染病学を研究しているジョン・コーフマン氏のチームだ。調査結果は、英学術誌『ジャーナル・オブ・エピデミオロジー・アンド・コミュニティ・ヘルス』(伝染病と地域社会の健康)に掲載された。

調査チームは、最低賃金と自殺率との関連を調べるため、連邦最低賃金と、全米50州およびコロンビア特別区における最低賃金について、1990年から2015年までの26年間における月ごとのデータを使って差額を算出。これらを18〜64歳の失業率や自殺率と比較した。実験群と対照群は、最終学歴で分けた。

米労働省のウェブサイトによると、現在の連邦最低賃金は時給7.25ドル(800円弱)。これとは別に各州でも最低賃金を定めており、連邦が定めたものと金額が異なる場合、労働者は高い方の金額を受け取る権利がある。CNNは、29の州とコロンビア特別区では連邦最低賃金より高い額が設定されており、残りの21州は連邦最低賃金と同額だとしている。

コーフマン氏のチームは、州ごとの経済状況や保護政策の違いを考慮した結果、最終学歴が高校卒業以下の人たちでは、最低賃金(時給)が1ドル上がった場合、自殺率は3.4〜5.9%下がったとしている。

なお調査チームによると、1990〜2015年の期間中、最終学歴が高卒以下の自殺者は39万9206人いた。一方で、学士以上の学歴の人で自殺したのは14万176人だった。学歴が学士以上の人たちの間では、最低賃金が自殺率に影響している様子は見られなかったという。

■低賃金で働く人を守る「最低賃金法」の重要性

調査チームは、失業率が高い時期ほど、最低賃金と自殺との関連性が高いようだとしている。2009年は、リーマンショックによる金融危機が原因で失業率がピークに達したが、この年から2015年までの期間中、最低賃金がもし時給1ドル引き上げられていたら、学歴が高卒以下の人たちのうち1万3800人、2ドル引き上げられていたら2万5900人の自殺が防げたのではないかと調査チームは見積もっている。

この数字を調査対象となった全期間1990〜2015年の26年間で見ると、最低賃金がもし1ドル上がっていたら2万7550人、2ドル上がっていたら5万7350人の自殺が防げたと見られている。

コーフマン氏はロイター通信に対し、最低賃金を定める法律が「富と健康」の関係に介入することで、うつ病や自殺のリスクが高い、低賃金で働いている人やその扶養家族の生活の質を改善できる可能性があると説明した。

またロイター通信によると、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究員アレックス・ガートナー氏(今回の調査には不参加)は、失業率が高い時ほど雇用主は賃金を下げやすくなるため、従業員にとって金銭的なストレスがかかると説明。不況の際にも賃金を維持できるようにする最低賃金法の重要性を指摘した。

CNNによると、2017年には米国で140万人の成人が自殺未遂をし、自殺関連の死亡者数は4万7173人に達した。同年に自殺未遂をしたのは、フルタイムで働いている人の0.4%、パートタイムの0.7%だった一方で、失業者の場合はこの割合が1.7%だった。

 

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