「ホームレス57万人」の衝撃
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NHK News 2020.01.28
「ホームレス57万人」の衝撃
目次
路上で暮らす人は日本の124倍
きのうまで普通に暮らしていた人が…
大統領選挙の焦点にも
路上で暮らす人は日本の124倍
好景気が続くアメリカ。
しかし、その一方で国内の経済格差は拡大している。
こうした中、都市部で深刻化しているのが路上生活者、いわゆるホームレスの増加だ。
アメリカ政府が今月発表した統計では、その数は全米で56万7715人。
前年に比べて2.7%も増えている。
州別に見ると、最も多いのが西海岸のカリフォルニア州。次いでニューヨーク州、フロリダ州の順に多い。
ちなみに日本のホームレスは、4555人(2019年、厚生労働省)。
アメリカの人口が日本の3倍であることを考えても、全米で約57万人というのはあまりにも多い。
きのうまで普通に暮らしていた人が…
カリフォルニア州ロサンゼルスで私が通勤で使うバスや電車では、大きな荷物を抱えたホームレスが乗っているのを見ない日はない。
中心部のスキッドロウと呼ばれる地域に行くと、高層ビルの下に少なくとも3000人はいると言われるホームレスの居住区域が形成されている。
少し歩くと、衛生状態がよくない地域独特の悪臭と、ドラッグ特有の強烈な臭いが漂っていた。
なぜ、ホームレスが増えているのか。
20年以上にわたって支援活動をしているジョージア・バーコビッチさんに話を聞いた。
「ホームレスの3分の1はドラッグとアルコールの問題がある人、3分の1は精神面の問題を抱える人、そして残り3分の1は経済状況が原因でホームレスになった人です。ロサンゼルスでは家賃が急激に上がっていて、普通のアパートで毎月2000ドルから2500ドル(約22〜28万円)もします。これを支払えなくなった人たちが、ホームレスになっています」。
好景気に伴って家賃は上がっていくものの、借り主の収入はそれほど増えていないため、家賃が支払えなくなる。
つまり、これまで普通の暮らしをしてきた人たちが、ホームレスになることを強いられてしまう。
そういう現実があるようだ。
大統領選挙の焦点にも
大統領選挙でも、ホームレスの問題は焦点の1つとなりそうだ。
まずは、野党・民主党。
候補者指名を争うバイデン前副大統領は、次のように対策の重要性を強調している。
「ホームレスがいるのが当たり前というのは、まっとうな考え方とは言えない。数十億ドルを投資して住宅を用意し、ホームレスがいなくなるようにする」。
サンダース上院議員は、5年間で320億ドル(約3兆5200億円)をかけて、ホームレスのための住宅を建設するとしている。
ウォーレン上院議員も、規模の大きい支援策を掲げる。
10年間で5000億ドル(約55兆円)を投資し、手ごろな価格の住宅をつくるというものだ。
これに対して、トランプ大統領。
ホームレスが最も多いカリフォルニア州と、次に多いニューヨーク州はともに知事が民主党であることから、次のようなツイートで政治的な攻勢をかけている。
「カリフォルニア州とニューヨーク州は、すさまじいホームレス問題について、何か手を打たなければならない。彼らは記録を更新中だ。もし解決できないのなら、丁重に支援を求めに来るべきだ」。
与野党を問わず、大統領を目指す政治家にとって、ホームレスの問題はもはや無視できないほどに深刻化している。
説得力のある解決策を打ち出せる候補者が、次期大統領の座に一歩近づくのかもしれない。
顔写真:及川 順
ロサンゼルス支局長
及川 順
1994年入局。
政治部、アメリカ総局(ニューヨーク)などを経て、
2019年6月からロサンゼルスに。