2008年5月19日の「朝日新聞」朝刊によると、厚生労働省は、子育てと仕事を両立できるように、企業に短時間勤務と残業を免除する制度の導入を義務づける方針を固めたという。早ければ、来年の通常国会に育児・介護休業法の改正案を提出する見込み。
現行の育児・介護休業法は、3歳未満の子どもを持つ人が働きながら子育てしやすい環境を整えるため、(1) 短時間勤務、(2) 残業の免除、(3) フレックスタイム、(4) 始業・終業時刻の繰り上げや繰り下げ、(5) 託児施設の設置運営、(6) 育児費用の援助措置――のいずれかの導入を企業に求めている。 厚労省は、40歳以下の正社員を対象に実施した昨年のアンケート調査結果を踏まえ、育児と仕事の両立には短時間勤務と残業免除が有効と判断。義務化する方法として、従業員が会社側に短時間勤務や残業免除を請求できる権利を与える仕組みも論議しているという。
以上に抜粋した記事は、厚労省の「時短・残業免除」案を子育て支援策として肯定的に報じている。しかし、少し考えればいくつかの大きな問題があることがわかる。
? 厚生労働省は総好かんを食って見送った「残業ただ働き」のホワイトカラーエグゼンプションに代えて、ワークライフバランスの推進を声高に言い始めた。しかし、今回の案を含め、所詮は全体の超長時間労働には手を付けず、特別に事情のある者にだけ残業免除を含む時短の選択肢を認めるという「働き方の多様化」にすぎない。
? こういうかたちの「働き方の多様化」では、家事労働をせず、能動的活動時間のすべてを会社に捧げる男性を正社員の基準にした今の働き方が温存され、そうした働き方ができない労働者は男女とも「能力の劣った」「成果を出せない」社員とみなされて、賃金や昇進において不利益な処遇を受ける恐れがある。
? 制度を利用することにともなう不利益処遇の恐れをなくすには、申請主義を改め、すべての当事者が平等に利用でき、かつ実際に利用する制度にする必要がある。しかし、前記の記事によれば、現行の育児・介護休業法の申請主義が維持されることになっている。
前出の記事は、最後に「政府は……多様な働き方の普及や長時間労働の是正を目指す少子化(対策)重点戦略を昨年末に決めた」と指摘しているが、これまでの「多様な働き方の普及」は、実際にはワークライフバランスの推進に寄与しなかっただけでなく、今日の格差社会を招き、少子化を一層深刻にしてきたことを直視するべきである。