森岡孝二 懲戒処分取り消し訴訟の逆転勝訴判決によせて

2008年11月14日、大阪高裁において、学校法人関西大学を相手取って関西大学第一高等学校英語教師の森川泰明先生が懲戒処分(停職3か月)の無効確認を求めて提起した裁判の控訴審で、「平成18年8年28日付けの懲戒処分が無効であることを確認する」という判決が言い渡されました。これは懲戒処分の無効確認請求を棄却した一審判決を百八十度変更したもので、完全な逆転勝訴判決です。判決全文はコチラをご覧ください。

判決の事実認定によれば、高校2年生約230名が参加した「スキー学舎」の一行は、帰りの搭乗予定の飛行機が降雪で欠航になったために、いったん千歳空港から札幌市内に戻り市内のホテルに分宿することになりました。同行していた森川先生と同僚の3人の教諭は同日(2月4日)午後7時45分ころ、サッポロファクトリーに到着して、同じテーブルでジンギスカン等を食べ、一人を除きビールとワインを飲みました。ただし森川先生は「コップ一杯程度で顔や前身が真っ赤になるほどであったために……少量を飲むにとどまった」そうです。
 
その後、若干の経緯があって、5月18日に、保護者ら25名(学校側からは校長など管理職と森川先生と同僚教諭1名)が出席する場で、本件飲酒に関する「話し合い」が行われました。その場では森川先生は飲酒について記憶は明確でないが、飲酒した可能性が高いとして保護者にお詫びする旨を述べました。しかし、「話し合い」では保護者の側から森川先生に非難が浴びせられ、「話し合い」後に教育後援会の役員らが保護者に宛てた書面も、「一定の謝罪と反省の意を示した控訴人(森川先生)に『反省の気配もない』と決めつける」内容でした。
 
森川先生と同じ席で飲酒をした同僚の2人の教諭に対しては、飲酒の事実を認め反省の意を示したという理由で、譴責処分がされただけにとどまりました。しかし、森川先生に対しては、きわめて重い停職3か月という処分が科されました。なぜこのように著しく公平を欠く処分がなされたのでしょうか。
 
森川先生は、判決を掲載したホームページにおいて、法人が常軌を逸して重い懲戒処分をした理由について、「原告がこれまで労働組合において中心的な役割を担い、労働条件の改善などの取り組みの先頭に立ってきたのみならず、被告の不正を厳しく追及する急先鋒としての役割を果たしてきたからに他ならない」と述べています。とすれば、この処分は森川先生と他の教職員への見せしめ効果を狙ったものではないかと考えられます。
  
判決は、こういう背景には立ち入っていませんが、森川先生に対する懲戒処分が無効であることを、「本件停職処分は、懲戒処分として、著しく重きに失し、相当性を欠くものであり、裁量権を著しく逸脱したものであるといわざるを得ない」として明確に認めています。
 
また、判決文には「教員に対する懲戒処分が、その業務内容と職責を考慮して行われるべきことは当然であるが、特にその懲戒事由や処分の量定が一般の懲戒処分に比して重くされなければならないと考えるべき理由はない」と書かれています。このことは教員に対する不当な、しばしば思想・良心の自由を侵すような処分が頻発している昨今にあって、教員の身分を守るうえで重要な意味をもつものと思われます。
 

なんと法人はこの判決を不服として理事会に諮ることもなく2週間の上告期間を待たずに即日上告しました。争議をいたずらに長引かせるだけのこの決定は、本件懲戒処分が内部告発者に対してよくあるようなみせしめ処分であったという印象をいっそう強めるものでしかありません。

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