愛媛新聞 非正規雇用のルール――待遇改善は政治と企業の責務

愛媛新聞 3月16日 社説

今や労働者の35%を超える非正規雇用者。その働き方、暮らしに大きな影響を及ぼす法改正が、またも当初の理念と異なる形で進んでいる。

派遣労働者の待遇改善を目指す労働者派遣法改正案が先週、衆院を通過。今国会で成立する公算が大きくなった。

2008年秋のリーマン・ショック後に相次いだ「派遣切り」、そして声なき声が結集した「年越し派遣村」…。非正規雇用者を、体のいい雇用調整弁や単なる数字として扱う社会に、企業の論理に、誰もが衝撃と不安を感じた。そうした事態を二度と繰り返してはならない。そう政治が誓ったことが、法改正の出発点のはずではなかったのか。

民主党政権は当初、仕事がある時だけ雇用契約を結ぶ登録型派遣や製造業派遣など、特に雇用が不安定な派遣形態の「原則禁止」を柱とした改正案を国会に提出。しかし、「過度な規制だ」との反発を受け、肝心の「原則禁止」規定の削除に応じてしまった。

派遣企業が得る手数料率の公開を義務づけるなど、労働者保護につながる項目も、あるにはある。しかし、理念は完全に失われ、修正とも呼べないほどの後退ぶりには幻滅と落胆を禁じ得ない。

今国会には他に、契約社員や派遣社員の「有期雇用」について、労働契約法改正案も提出される見通しとなった。契約通算期間が5年を超えた場合に労働者が希望すれば、期間を区切らない無期雇用へ転換できるようにする。

有期雇用労働者は今、非正規雇用者の3割、1200万人。権利強化は不可欠だが、法案では、期限前に契約を打ち切る「雇い止め」の懸念は依然残る上、そもそも有期雇用は原則禁止という「入り口規制」ができなかった。実効性には大いに疑問が残る。

企業側は、非正規労働者への依存度を増しながら、権利拡大の動きには「雇用の減少を招きかねない」「国内では事業継続が困難」と、否定的なけん制を繰り返す。しかし従業員の生活の安定と幸せをないがしろにして、ひとり企業だけが繁栄することなどあり得ない。多様な働き方を包含できる、新たな雇用のルール構築に、もっと積極的に取り組んでもらいたい。

近年は、新卒者の就職先がいきなり非正規雇用という例も増えた。若年世代が「1年後の生活も見通せない」ような状況では、社会の発展も安定も到底望めない。パートなど非正規労働が多い単身女性は、実に3人に1人が「貧困状態」に陥ってもいる。

非正規労働者の窮状を放置することは、貧困層の拡大や格差の固定化に直結する。安定的な雇用の確保と待遇の改善は、政治と企業の責務であり、喫緊の課題であることを決して忘れてはならない。

 

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