これで派遣労働者の待遇が改善されるのか疑問だ。
改正労働者派遣法が参院本会議で賛成多数で可決、成立した。
製造業派遣の原則禁止などの骨格部分は削除された。すでに民主、自民、公明の3党で合意済みだったとはいえ、派遣制度の規制強化が当初の改正案より後退したことは納得できない。
政府は派遣労働者の処遇向上と雇用安定に向け、重い責務を負っていることを自覚すべきだ。
派遣法改正は政府・民主党の看板政策のひとつだったはずである。
2008年秋のリーマン・ショックで相次いだ「派遣切り」を受け、製造業派遣の原則禁止、仕事がある時だけ派遣元の企業と雇用契約を結ぶ登録型派遣の原則禁止などを盛り込んだ改正案を10年4月に国会へ提出した。
改正案は派遣法が1986年に施行されてから初めて規制強化へと方向転換し、労働者保護の視点を明確に打ち出した意義があった。
だが自民、公明両党や経済界は規制強化で人件費が膨らみ企業経営を圧迫し、雇用機会を奪うことにつながるとして反発を強め、昨年11月に大幅修正して合意した経緯がある。
成立した改正法では、派遣元の企業が手数料の割合を情報開示することが義務付けられた。派遣労働者が適正な賃金を受け取れるための当然の措置だ。
雇用期間が30日以内の短期派遣も禁止する。ただ、当初の改正案で2カ月以内とされていた対象期間は大幅に短縮された。
正社員への道を開く「みなし雇用制度」も先送りされた。偽装請負などの違法派遣があった場合、派遣先企業に直接雇用させる規定だが、施行は3年後からだ。
いずれも当初改正案と比べ、不安定な雇用形態を早急に見直す姿勢が見えないと言わざるを得ない。
民主党は2009年の衆院選マニフェストに製造現場への派遣の原則禁止を明記しており、改正法との矛盾は明らかだ。「雇用の原則は期間の定めのない直接雇用」との方針を掲げる連合の姿勢も問われよう。
厚生労働省によると、長期の雇用契約を結ぶ「常用型」の派遣労働者は10年度で約94万人、「登録型」は約177万人を数える。
派遣労働に対しては、多様な働き方を可能にしたとの見方もある。しかし、所得格差を助長している現状は看過できない。企業にとっても人材育成の面で正規雇用の重要性は無視できないはずだ。
厳しい経済情勢だからこそ、雇用環境を少しでも改善していくために改正法の不断の見直しが必要だ。