読売 [今日のノート]仕事に行ったらあかん

2013/03/20 読売大阪 朝刊 気流面
 
小学1年の時、「僕の夢」という詩を書いた男の子がいた。和歌山県内の市役所で働いていた彼の父親は責任感が強く、激務の末、自ら命を絶っていた。

  <大きくなったら、ぼくは博士になりたい/そしてドラえもんに出てくるような/タイムマシーンを作る/ぼくはタイムマシーンに乗って/お父さんのしんで しまう前の日にいく/そして「仕事に行ったらあかん」ていうんや>

 京都市の寺西笑子さん(64)は17年前に夫を亡くした。外食チェーンの店 長だった夫は過大なノルマを強いられながら長時間労働を続け、うつ病になって自宅近くの団地から飛び降りた。
  労災認定を受けた。会社にも安全配慮義務違反を問う訴訟を起こし、地裁で勝訴、2006年に高裁で和解して会社から謝罪を得た。「真相を解明して夫の名誉を回復するためだった」という。
 
だが“過労社会”の改善は進んでいない。脳・心臓疾患と精神障害の労災請求は11年度に計2170件(うち死亡・自殺未遂504件)と過去最多。中高年だけでなく若者にも増えつつある。

  「過労死のない社会をつくることが夫からの宿題」と話す寺西さんたちは「過労死防止基本法」の制定を求め、男の子の詩も紹介しながら、署名集めや国会議員への要請などを進めている。

  karoshiが国際語になって20年以上。命を奪われる労働がいつまでもあってよいはずがない。(編集委員 原昌平)

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