東京新聞社説 過労社会 まず休息から考えよう

東京新聞 2012年7月28日

残業に追われる日本のサラリーマンたちの健康をどう守るか。心身を病んだり、命を落としたりする労働災害が後を絶たない。まずは休息。そこから仕事を組み立てる発想も大切だ。

「エコノミックアニマル」。かつての高度成長期の日本人を世界はそんな蔑称で呼んだ。利己的に振る舞い、利益ばかりを追い求める国民気質を皮肉ったのだ。
 
長時間の残業や休日抜きの勤務は美徳でさえあった。その揚げ句に命を失う「過労死」という現象は、今やそのまま「Karoshi」とつづられて外国語の辞書に載っている。
 
働き過ぎ批判に日本は労働時間の短縮を進めた。その集大成が現行の労働基準法と言え、原則として一日八時間、週四十時間までとされている。
 
ところが、大きな抜け道が残されていた。経営側と労働側が残業や休日出勤の上限を決めて協定を結べば、原則には縛られないという仕組みだ。労基法三六条に基づく「三六協定」という。
 
東証一部上場の売り上げ上位百社(二〇一一年決算期)を本紙が調べたところ、七割が月八十時間以上の残業を認める三六協定を結んでいる実態が分かった。
 

トップは大日本印刷の月二百時間だった。次いで関西電力の月百九十三時間、日本たばこ産業(JT)の月百八十時間と続いた。
 
この月八十時間とは脳や心臓の疾患のリスクが高まる「過労死ライン」とされている。長時間労働はうつ病などの精神障害の引き金となる恐れがある。
 
いずれも日本を代表する企業だ。過労死や過労自殺を招きかねない働き方が常態化しているとすれば見過ごせない。長引く不況で人員削減が進み、一人当たりの仕事量が増える傾向にある。

厚生労働省は時間外や休日の超過勤務を抑えようと賃金割増率を引き上げてきたが、焼け石に水のようだ。サービス残業が広がっていないか。三六協定が適正に結ばれているか。
 
労働時間の規制論議に対して経営側はいつも反発してきた。生産性が落ちるとか労働意欲がそがれるとかいった具合だ。
 
ならば、まず一日の休息時間を確保してから働き方を考えてはどうか。「勤務間インターバル規制」と呼ばれ、実際に欧州連合(EU)では終業から翌日の始業までに十一時間以上の休息を取るルールがある。働き手が健康でいてこそ企業も存続できるのだ。

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