愛媛新聞社説 ブラック企業 放置しては日本の未来がない

愛媛新聞 2013.12.20

 「ブラック企業」対策として厚生労働省が監査した結果に、驚くべき現実が並んだ。過酷な労働を強いて若者らを使い捨てる企業や事業所が4千社を超えるなど、看過できない事態がまん延している現状が明らかになったのだ。

 若者だけでなく、立場の弱い労働者につけ込む悪質な企業がはびこる社会を、放置してはならない。同省は是正勧告に加え、改善されない場合は労働基準法違反などで送検し社名を公表するという。今後も可能な限り厳格な姿勢で対応し、ゆがんだ企業倫理の徹底的な追放を望みたい。

 厚労省は、企業情報などを基に選んだ全国5111社に対し、9月に監査を実施。その結果、82%に当たる4189の企業や事業所で長時間労働などの法令違反があり是正勧告を行ったという。陰惨な現実を前に、言葉もない。

 しかしこの数字さえ、氷山の一角だという。取り締まりに当たる労働基準監督官の数は全国にわずか約3千人で、実態は霧の中だ。むしろ表看板の裏に隠された陰湿な企業体質をあぶり出すため、社会全体で法令違反を許さない環境を整える必要があろう。

 今回の監査では過重労働の実態が次々と明るみに出た。労使協定を無視した時間外労働や残業代の不払い、労災隠し…。違反率が高い飲食などの接客娯楽業や運輸交通業、保健衛生業などの職種では、こうした法令違反が日常化しているとの指摘もある。

 深刻なのは、過重労働の犠牲になるのは若者が多いという現実だ。20代の若者を「名ばかり管理職」にし、残業代を払わない企業は多い。経営状況の悪化を理由に、ほとんど8カ月間も賃金をもらえなかった例もあるという。

 若者が安心して働けない社会に未来はなかろう。大卒で就職しても、3年以内に3割以上が離職している現実は、ブラック企業が野放しにされている証左だ。過労死や過労自殺の連鎖も、徹底的な対応で断たねばならない。

 改善を、企業の自浄作用に頼っていたのでは限界があろう。むしろ、求職者や労働者の積極的な意識改革こそを求めたい。経営側と対等に交渉できる労働組合を組織する社会的支援も必要だ。離職率の高さや会社情報の頻繁な変更など、ブラック企業を見極める視点も必要となろう。

 悪質企業の社会的締め出しには消費者の役割も重要だ。関連の企業や事業所を利用しない、関連製品を買わないなど、健全な企業の育成に積極的に関わりたい。

 ブラック企業は、労働者の人生を奪い社会を停滞させ、日本の未来をも閉ざす恐れがある。国にはより毅然(きぜん)とした対策を求めるとともに、労働者を大切にする環境を社会全体で育まねばならない。

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