東京電力福島第一原発で作業員の被ばく線量がごまかされていた。多重の下請け構造で、労働者の命や健康が脅かされている。国は事業者に対し、被ばく線量管理や偽装チェックを徹底すべきだ。
本末転倒の犯罪的行為だった。
東電の孫請け会社の役員が、作業員の線量計を放射線を下げる効果のある鉛カバーで覆い、実際の線量よりも低く見せ掛けようと命じた。労働安全衛生法はもちろん、刑法にも触れかねない。
作業員の被ばく線量は年間許容量が定められ、上限になると働けない。現場では以前から線量のごまかしが行われていたとされ、発覚したのは氷山の一角である。
ほかのケースで従事した作業員は証言している。「高線量の場所で警報が鳴らないように線量計のスイッチを切った」「線量計を身につけずに作業場の外に出していた」。これまで目を向けられてこなかった現場の実態と問題が浮かんでくる。
東電は不正発覚を受け、福島第一原発で昨年六月以降、線量計を紛失したり、装着していなかったケースが二十八件あったという調査結果を公表した。ずっと偽装は見て見ぬふりをされて、対策は怠られてきた。
原発作業は、東電をトップに約四百社がピラミッドをつくる。プラントメーカー、子会社、孫請け、小規模事業者、一人親方…。下へ、下へと降ろされる間に手数料がピンハネされ、末端で働いているのは多くが立場の弱い日雇いの労働者だ。
作業員が集まりにくいと暴力団を使った強引な人集めもはびこることになる。発覚した例も、派遣許可のない業者から送り込まれたり、口利き業者が絡んだ違法な多重派遣だった。これでは作業員が病気になっても事業者の責任はあいまいにされてしまう。労災を申請しようにも被ばくの証明が難しく、救済できなくなる。
3・11事故で高線量の作業が増え、一人一人の被ばく線量を足しあげた「被ばく総線量」は、事故前の十六倍に跳ね上がっている。健康に対する不安は増すばかりである。
今後四十年かかる廃炉も中心を担うのは末端の作業員だ。許容線量が上限に達した作業員が雇用保険もなく、雇い止めにされる問題もある。国は事業者に被ばく線量と健康の管理を徹底させ、作業員が安心できる生活保障の道筋をつくっていってもらいたい。