東京新聞社説 広がる派遣教員 生徒と向き合うために

東京新聞 10月25日
 
私立高教員の非正規化が加速し、人材会社が講師を派遣するケースも広がっている。そうした教員は不安定な身分や低賃金で働き、仕事上の悩みも深い。教育現場への講師派遣に問題はないのか。
 
埼玉県の私立高で派遣会社と請負契約を結んでいた女性講師に学校側が違法な勤務の指示をしていたことが発覚し、東京労働局が九月、学校や派遣会社に是正指導した。講師は週十六コマ担当し生徒に慕われたが、学校生活の悩みや進路を相談されても請負では力になれなかった。
 
非正規の教員が増えたのは少子化で生徒数が減り、経営難の高校が増えたためだ。総経費の約七割を占める人件費を抑えるため、正規教員の退職者は補充を控え、非正規を増やす。文部科学省の調査によると、全国私立高教員九万三千人のうち、非正規の講師は37%の三万四千人(二〇一一年)。十年で一割近く増えた。
 
さらに学校と直接雇用契約を結ばず、人材会社から派遣された講師が授業を受け持つケースがある。学校が非常勤講師を直接雇うよりも費用は若干高くつくが、社会保険加入もいらない。科目数の増加など急なニーズに間に合わせられ、自前で人材を探しきれない学校には便利なためだ。
 
全国私立学校教職員組合連合が今秋、傘下五百九十の私立高の派遣実態を調べたところ、回答した二百六十二校のうち、少なくとも三十五校で計百四十人の派遣や業務として個人で授業を請け負う講師がいると分かった。教員九十数人のうち十五人も派遣を使う学校もある。永島民男(えいじまたみお)・中央執行委員長は「多数いる学校が正確に答えていない可能性もあり、実際はもっと多いだろう」とみる。
 
教育現場への講師派遣で難しい問題も生じる。派遣は事前面接が禁じられており、私学の建学精神や伝統に合う人材を探せない。請負だと現場で業務を指示できないため、学校側は講師の授業に注文があっても本人に言えず、雇用主の人材会社に伝えなくてはならない。教員同士の授業相談や研修は違法の偽装請負になる。
 
校務や部活動を頼めない非常勤講師だけでなく派遣が加わり「学校運営が難しくなった」という現場の声もある。教員にも、さまざまな働き方があっておかしくない。一方で、教員を多様化するなら学校側もそれにふさわしい生徒指導や教員研修の体制づくりを急ぐ必要がある。生徒本位の学校にすることがもっとも大切だ。

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