毎日社説: 2012衆院選 日本の針路「原発と社会」

毎日新聞 2012年11月23日

 原発をゼロにするのか、維持するのかは日本の社会の未来像を左右する。原発・エネルギー政策は、今回の総選挙の大きな争点である。

 東京電力福島第1原発の事故から1年8カ月を経てなお、16万人以上が避難生活を余儀なくされている。事故の現場では終わりの見えない収束作業が続く。汚染地域の除染作業は進まず、住民の低線量被ばくへの不安も収まらない。

 これほど甚大な事故のリスクがあるとわかった以上、原発の新増設はもはやありえない。厳格なリスク評価を前提に、再稼働は当面認めるにしても、これまで地震活動などの危険性を過小評価してきたことを思えば、原発を減らしていく以外に選択肢はあるまい。

 ◇削減の工程表が必要

 各党には、そうした現実を踏まえ、責任のあるエネルギー政策を示してもらいたい。

 民主党は、マニフェストに「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指す方針を盛り込むという。しかし、その道筋が一向に示されないため、説得力に欠ける。野田内閣が、同様の方針を閣議決定しなかった経緯から「本気度」を疑う声もある。

 私たちは、各原発のリスクを横並びで評価し、優先順位をつけて廃炉にしていくことを提案してきた。そうした手法も含め、脱原発の工程表を示してもらいたい。これは、公明党など脱原発を掲げる他の政党にとっても共通の課題といえる。

 一方、自民党の公約は「10年以内に電源構成のベストミックスを確立する」というものだ。これでは、問題の先送りであり、脱原発を目指すのか、従来路線を踏襲するのかも定かでない。

 事故を招いた遠因は、甘い安全規制や原子力ムラのなれ合いにあり、それを放置してきた自民党にも責任はある。それも踏まえた上で、明確な方針を示すべきだろう。

 日本維新の会は、原発ゼロ政策の旗を降ろし「安全基準などのルールを作る」というにとどまる。原発推進派の石原慎太郎前都知事と手を組むために、原発政策をないがしろにしたと見られても仕方あるまい。これでは国民は選択しようもない。

 原発をやめるにしろ、維持するにしろ、必ず取り組まなくてはならない現実的課題は山積している。

 その一つが使用済み核燃料の問題だ。民主党は原発ゼロをめざしつつ、核燃料を再生産するための再処理を続けるという矛盾した方針を示してきた。立地自治体や、安全保障も絡む米国との関係などに配慮したためだとされる。マニフェストに核燃料サイクル事業の見直しをどう盛り込むか、まだはっきりしないが、ここでもやめるのか、維持するのかの「方向感」を示すべきだろう。

 これまでの先送り政策を見直すため、自民党など他の政党にも具体的な方針を示すよう望みたい。

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