毎日社説: 春闘集中回答 中小、非正規へ広げよ

毎日新聞 2014年03月13日

 過去最高水準のベースアップ(ベア)の回答など大手自動車、電機の春闘は近年にない活況となった。輸出型企業を中心に業績回復が見られ、政府からの強い賃上げ要請に経営側が応えたためだ。ただ、中小企業や非正規社員にどこまで賃上げが波及するかが焦点であることに変わりはない。一部大企業の正社員だけが賃上げを獲得するのでは、政権が目指すデフレ脱却への効果も限定的になるだろう。

 政府にとっては国民の所得を増やして消費意欲を喚起することで経済回復を本格化させ、4月からの消費増税に伴う景気の失速を回避するためにも賃上げは不可欠と位置づけられていた。一時金ではなく、将来の退職金などにも反映されるベアの実施は生活の安心感を向上させるものとして求める声が強かった。

 経営側は当初、政府の春闘介入には批判的で、昨年の春闘でも一時金アップには応えたがベア回答をした企業は少なかった。今春闘で大手が高水準のベアに踏み込んだのは、安倍政権の異例ともいえる賃上げ要請がやはり大きい。現在、政府は法人減税や雇用規制の緩和を検討しており、こうした政権の姿勢が経営側の春闘方針に影響したことも否めないだろう。

 労組にとっては賃金水準が20年近く減少傾向にあったのを一変させる大手の回答となったが、政府の要請がなければ賃上げを勝ち取れない実情に対する批判もくすぶる。特に、非正規雇用の賃上げや待遇改善についてはここ数年目標に掲げながらほとんど成果を上げられなかった。非正規雇用は計約2000万人で労働者全体の4割弱を占めるまでになったが、労組に加入している人は80万人に過ぎない。労働者全体の待遇改善を図る場としての春闘の役割が年々縮小しているのも否定できない。

 わが国は人口減少の局面に入っており、長期的に見ると現役世代のいわゆる「生産年齢人口」は大幅に減っていく。外国人労働者の大量の受け入れでもしない限り、企業は働き手不足に直面することが避けられない。そこで、質の高い労働力として注目されているのが女性や高齢者だ。そうした潜在的な労働力を生かすためには、現在の正社員の終身雇用を前提とした雇用ルールを見直し、高齢者や女性にも働きやすい労働条件や職場環境の改善に官民挙げて取り組まねばならない。

 政府と労使による協議は単に賃上げを実現する役割にとどめてはならない。中長期的な雇用改革に政労使協議が有効に機能するかどうかも試されているのである。もはや一部大企業の正社員のベアで一喜一憂しているような時代ではない。

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