劣悪な労働を強いる違法な会社。ブラック企業と呼ばれる。就職難をいいことに、弱い立場の若者に恒常的に長時間の残業を課し残業代は支払わない。パワーハラスメント(パワハラ)や暴言も日常化、従わなければ退職を迫る。若者は定着しないと言われるが、早期に離職してしまう一因にはこうしたブラック企業の存在が見逃せない。
大学3年生の就職活動が真っ最中。内定を求め学生らは必死に走り回っている。薄日が差してきた就活戦線とはいえ、就活期間が2カ月短くなった影響から「どこでもいいから内定がほしい」と焦り苦戦する学生も多い。会社を選べない事情を背景に、ブラック企業や類似の会社は広がっている。厚生労働省も対策に乗り出した。
福井労働局も2011年度、相談件数が3年ぶりに2千件を突破。「いじめ・嫌がらせ」が約380件と前年度より16%以上増えた。労働局が指導に乗り出した102件という数は前年度の64%増と深刻な数字だ。
労働局の相談急増を受け、厚労省が初めて実施したパワハラ調査(企業1万7千社、従業員9千人対象)で、過去3年にパワハラがあった企業は32%に上った。リストラ、企業競争激化のあおりを受けた職場環境の悪化がうかがえる。
パワハラが常態化すればもはやブラック企業である。大手や有名企業にも増えていると指摘するのは、若者の労働相談に応じている東京のNPO法人「POSSE(ポッセ)」。相談の3割以上がブラック企業にまつわる内容という。
うつ病になっても退職届を捨てられ、上司に従わないと激しい嫌がらせで自主退職に追い込まれる。好待遇と思った初任給は月100時間の残業代込みと入社後分かった。希望に輝き入社した先がブラック企業では新人の落胆ぶりも計り知れない。
厚労省は10月、入社3年以内に退職した人の業種別割合を初公表した。「教育・学習支援」48・8%、「宿泊・飲食サービス」48・5%、「サービス・娯楽」45%など。現在、大卒の3年以内の離職率は30%前後。各業種の離職率を知れば学生に不本意な離職を回避してもらう一助になる。公表はブラック企業への対策を含んだものだ。
企業の暗部は入社後でないと分からない。厚労省は就職後のトラブルや早期離職を防ぐため今秋、労働法制の基礎知識を各地の大学で開催した。
雇用形態が多様化し、パワハラ現場では立場の弱い派遣社員らが対象になっている。外部機関や会社に相談しても何も対処してくれなかった人が30%以上いる。会社がパワハラと認識していなかったという人も17%。安倍政権には若者がキャリアを積める雇用政策にも目配りしてほしい。成果主義で人を育てる雇用が崩れ、長期雇用も前提でなくなった現在、国がしっかり後押しないと日本の将来を担うべき若者は育たない。