賃金は15年前から下がり続け、非正規雇用は全体の3分の1を占めるまでになった。春闘の存在感が薄くなったと言われて久しい。しかし、今年はデフレ脱却を目指す安倍政権の経済政策で企業業績に薄日が差し、連合は非正規社員の待遇改善を初めて前面に掲げての春闘だ。ちょっと期待してみたい。
経営側の財布のひもが固いのは、日本の給与水準がすでに世界トップレベルで、賃上げは社会保険料も連動するため国際競争力の足を引っ張るとの考えが根強いからだ。円安・株高が続いたとしても具体的な成果が表れるのは先で、すぐに賃上げなどできないという。
連合は今春闘で定期昇給の維持に加え、賃上げ・労働条件の改善として給与総額の1%を目安に配分を求めている。デフレ脱却には内需の6割を占める個人消費が増えなければならず、それには所得増が不可避だ。円安は輸出型産業には追い風だが、エネルギーや食料品は値上がりし、国民生活には打撃となる。物価だけ上がって賃金が置き去りにされたのではデフレ脱却など絵に描いた餅に終わる、というのだ。
安倍晋三首相も「業績が改善している企業には報酬の引き上げを通じて所得の増加をお願いしていく」と踏み込み、日本銀行審議委員も「物価2%上昇を目指すには4%程度の賃金の伸びが必要」と語るなど、賃上げを求める声は強まっている。
それでも経営側が慎重なのは、4月から雇用関係の改正法が相次いで施行され人件費増に対応する必要に迫られるからでもある。改正高年齢者雇用安定法では企業に希望者全員の65歳までの雇用確保が義務付けられる。また、改正労働契約法では非正規社員の通勤手当などをめぐる差別待遇禁止や無期雇用への転換が促されるようになる。少しくらい業績が改善しても賃上げする余裕はないというのが本音だろう。
連合は大手と中小企業の格差是正、非正規の正社員化へのルールや昇給制度の明確化、社会保険適用拡大なども今春闘の重点要求項目に掲げた。大企業の正社員中心の連合が非正規の改善に本格的に取り組む意味は大きい。社会全体から見た優先課題はここだ。個人消費が拡大しないのは低賃金とともに将来不安から少ない収入を貯蓄に回しているからでもある。経営側も協力して非正規社員の改善に取り組むべきだ。
これまで春闘をリードしてきた企業が国際競争で苦戦するのは分かるが、業績を伸ばしている企業まで横並びで賃金を抑制するのは納得できない。企業の内部留保はこの数年膨らみ続けてもいる。働く人に将来の希望を実感させてほしい。