東京新聞社説: 長時間労働 働く人の悲鳴聞こえる

東京新聞 2014年8月5日

 牛丼チェーン「すき家」で過酷な長時間労働がまん延していた。平均残業時間が月百九時間で過労死ラインを超えている。同社だけの問題ではない。違法労働を野放しにしてきた行政の罪は重い。

 業界最大手となった企業の成長の陰で、どれほど多くの労働者が泣かされていたか。すき家を運営するゼンショーホールディングスの外部識者でつくる第三者委員会が、七月に公表した社員やアルバイトのアンケートからは、非情な実態が浮かび上がる。

 「月五百時間以上働いた」「二十キロやせた」「二十四時間連続の勤務」。すき家は店舗に最低限の人員しか配置しないことで知られる。深夜も一人で働く「ワンオペ」が常態化し、それを狙った強盗事件が多発していた。

 休憩がとれず、トイレにもいけない。うつ病を発症したり、居眠り運転による交通事故は二〇一二年度に少なくとも七件起きた。

 アンケートは、人手不足から休業店舗が相次いだ今春、労働実態を調べるために行われた。第三者委はワンオペの解消などを提言したが、経営側は努力するとしながら目標時期を示していない。これでは、人権侵害を続けるだけだ。劣悪な労働でコストを下げ、働く人を使い捨てにするやり方は、ビジネスとして破綻している。

 国や監督機関の対応にも問題がある。労使協定を超える残業などは労働基準法で規制され、違反には刑事罰が問える。だが、すき家の場合は、労働者側から違法な職場の是正指導を求める訴えがありながら、適切な処分に動いていたとは言い難い。

 労働基準監督署は一三年度だけで同社に四十九回勧告したが改善されていない。労働者を守る法律が建前になっているからではないか。取り締まる権限を持つ監督官も他の先進国に比べ少なすぎる。

 長時間労働はすき家だけの問題ではない。一三年度の労災請求で、精神疾患は千四百九件と過去最多となった。二十代、三十代が半数を占める。正社員を減らす“合理化・効率化”の影響が学生アルバイトにも及ぶ。学業に支障をきたす重労働と、社員並みの責任を課されている。

 学生側も経済状況が苦しい。親の仕送りが減る中、劣悪な職場でも簡単に辞められない。そんな事情に付け込む企業も少なくない。

 先の通常国会で過労死防止法が成立した。過労死につながる長時間労働を許さない。声を上げ、働く人の命を守る意識を広げたい。

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