赤旗主張 限定正社員 「多様な正社員」の落とし穴

 しんぶん赤旗 2013/04/02

 政府の規制改革会議で労働・雇用分野の規制緩和を検討しているワーキング・グループが「限定正社員」を広げるルールづくりを最優先検討事項にしました。「多様な形態の正社員」をつくるという名のもとに、勤務地や職務などに限定した正社員雇用を拡大するというものです。これによって非正規社員が正社員になる機会も広がるといいます。正社員を拡大するといえば、労働者にとってよい方向にみえますが、働き方を劣悪化させる重大な落とし穴があることを見逃すわけにはいきません。

ねらいは人件費削減
限定正社員は、企業と無期労働契約を結ぶという点で正社員と同じですが、家庭の事情で転勤できなければ地域限定正社員となり、待遇が正社員より低くなります。転勤問題は女性労働者の差別待遇として以前から問題になっていました。つまり企業の都合に何でも従うことができるかどうかを処遇の基準にして、正社員に格差をつけようというものです。

 限定正社員制度を本格導入したら、正社員が地域限定や職務限定、残業時間限定などに分類されて賃金が大幅ダウン、一時金も半減、定期昇給なしなどの扱いになりかねません。そして企業の命令でいつでも転勤でき、サービス残業も平気、24時間企業に尽くす覚悟をもったごく一部の「スーパー正社員」が中核として残ります。こういうやり方で正社員を多様化すれば、企業は総額人件費を大幅に削減することができます。財界が限定正社員制度の整備を求めるねらいはここにあります。

 限定正社員導入の目的として、非正規雇用労働者の正社員転換の機会をつくることがあげられています。正社員になることは非正規で働く人の強い願いです。しかし限定正社員というのは、正社員より冷遇され、しかも「正社員なんだから」といわれて仕事がきつくなる、労働者にたいへんな不利益をもたらす形態です。

 労働契約法が昨年改定されて、有期雇用が5年を超えたら無期雇用に転換できることになりましたが、労働条件はそのままでよいとされています。さらに厚生労働省は、勤務地や職務が限定されている労働者は「(正社員と)同列に扱われることにならない」という通達を出しています。正社員未満の雇用条件でいいということです。

 ユニクロがフルタイムの非正規社員を「実力評価」で地域限定正社員に転換する制度を導入しています。賃金は時給を月給制にし、査定で一時金を支給するのが違いです。しかし仕事は以前よりきびしくなって体がもたず、離職が後を絶たないといわれます。

不安定雇用へと激変
日本のように人間らしく働くルールが弱い国での正社員化は、企業による強い支配従属関係に入ることになります。普通の正社員でさえ長時間・過密労働できびしいのに、「限定」された低水準の待遇で、正社員としての高い目標を押しつけられる雇用形態はあってはならないものです。

 限定正社員の場合、危険なのはリストラで地域、業務がなくなったら解雇が必至です。このための解雇自由のルールが伴って出てくる可能性もあります。正社員の雇用形態を破壊し、不安定雇用化へと激変をもたらすきわめて重大な動きといえます。

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