読売新聞 2013/9/8
若者に過重労働を強いる「ブラック企業」が社会問題となっている。
厚生労働省は、離職率が極端に高く、サービス残業や賃金未払いが常態化している企業約4000社を対象に、立ち入り調査を始めた。
悪質な企業については、社名を公表するという。実態を把握し、指導を強めてもらいたい。
ブラック企業に明確な定義はないが、共通するのは、異常な長時間労働をさせた上で、社員を使い捨てにする点だ。上司の暴言などによるパワーハラスメントが横行しているケースも多い。
残業が月100時間を超えても残業代が支払われない。業務終了後も上司から繰り返し叱責され、接客の練習をさせられる。うつ病になって退職し、生活保護を受けている。若手男性社員のこのような例もある。
本来なら働いて税や保険料を納め、社会保障の支え手となるべき若者が、逆に受け手となるのは社会全体の損失だ。医療費や生活保護費は国民の負担となる。
こうしたコストを社会に押しつけて、利益を上げようという企業経営は、あまりに身勝手だ。
ブラック企業が増えている背景には、不況に伴う求人の低迷で、就職戦線が買い手市場になっていることがある。
早期退職が続出するのを見越して大量採用する。その上で、過剰なノルマを課し、成果を上げた社員だけを「即戦力」として選別する企業もあるという。
普通の企業なら、若手を一人前に育てるために社員教育を実施する。しかし、ブラック企業の実態からは、社員の能力を引き出し、伸ばしていこうという人材育成の姿勢が全く見えない。
弱い立場の若手社員が、泣き寝入りしないためには、過酷な労働実態を訴える声をすくい上げる体制整備が、まずは欠かせない。
厚労省は、若者からの電話相談窓口を新設する。弁護士団体やハローワークも相談業務を拡充する方針だ。“駆け込み寺”として有効に機能させたい。
欧州連合(EU)では、24時間につき連続11時間以上の休息を社員にとらせることを企業に義務づけたルールがある。
日本では、労働基準法で労働時間の上限が定められてはいるが、労使が特別な協定を結べば、企業が事実上、際限のない長時間労働を社員に課すことができる。
EUなどの例も参考に、過度な長時間労働を抑える仕組み作りも、今後の課題だろう。