東京新聞 2013年9月14日
史上最大の倒産で大恐慌の再来も懸念された米証券大手リーマン・ブラザーズ破綻から十五日で五年を迎える。危機は変容して続いており、負の遺産解消とともに新たな課題に目を向けるべきだ。
米国の不動産バブルの崩壊をきっかけに、負債総額約六千億ドル(約六十兆円)に上る倒産劇、いわゆるリーマン・ショックが起きたのは二〇〇八年九月十五日だった。これをきっかけに世界同時不況に陥り、一時は一九二〇年代の大恐慌の再来危機が叫ばれた。米国をはじめ欧州、日本、さらに中国までもが前例のない金融緩和や大規模な財政出動などの対策を打ち、何とか奈落の底に落ちることは回避した。
しかし、世界から消えた金融資産は二千七百兆円、主要国が対策に費やした財政資金は二千兆円に達するとの見方がある。その後遺症や副作用は今なお世界を覆っているのが実情である。
例えば、米国は経済の回復に伴い、これまで大量の資金を市場に流してきた「量的緩和」の縮小を模索しており、インドやロシアなど新興国に流出していた投資資金が米国へ還流する動きが出ている。新興国では通貨の暴落が起き、インフレから経済危機も警戒されている。
四兆元(約六十兆円)もの大規模な景気対策で経済悪化を食い止めた中国は、米国に代わり世界経済をけん引したが、不動産バブルや都市と地方間の格差問題などで不透明感が強まっている。
欧州では金融危機が債務危機に姿を変え、ギリシャからイタリア、スペインなど南欧各国に広まった。通貨はユーロに統一しながら財政政策は国ごとに異なるというユーロ圏の矛盾が露呈した。
だが、何よりリーマン・ショックがあぶり出したものは、収益や報酬ばかりに目がくらんだウォール街など金融界の強欲主義であり、富める者と貧しい者の格差が一層拡大する「米国型資本主義」の限界である。米国経済を支えた中間層が消失し、1%の富める者が99%を搾取するようないびつな社会を浮き彫りにした。
「富める者が富めば貧しい者にも富が自然に浸透する」というトリクルダウン理論の誤りは実証されたのに、安倍政権の成長戦略は相変わらず大企業や富裕層優先の発想である。これでは格差の拡大、固定化が進むばかりだ。
米国を周回遅れで追うような政策ならば、アベノミクスの先行きは危うい。