高知新聞 2013.12.23
あらためて現代社会が抱える闇の一端が浮き彫りになった。過酷な働き方を強いて若者らを使い捨てにする「ブラック企業」のまん延である。
厚生労働省が9月、全国5千社余りに実施した集中的な立ち入り調査で、実に82%の企業から長時間労働や残業代の不払いなどが見つかり、是正を勧告した。電話相談で寄せられた情報や離職率の高さを基に対象を絞ったとはいえ、法令違反のあまりの多さにその異常ぶりが表れている。
企業にとって業績の重要さはいうまでもない。が、行き過ぎた利益至上主義には、社員やその家族の生活を守るという経営者の矜持(きょうじ)がみじんも感じられない。社会全体で複合的に監視を強め、包囲網を狭めていく必要がある。
日本ではいまだ早期離職は再スタートのハンディとなりかねない。ブラック企業は「代わりはいくらでもいる」と若者らの弱みに付け込み、重労働を強要していく。パワハラやセクハラ、いじめも多いという。
従業員の7割が「名ばかり管理職」で残業代なし、8カ月も賃金を払わない―。調査で明らかになった実態はすさまじい。月100時間の時間外労働は過労死の認定基準になるが、なかにはパート従業員に170時間も残業させた悪質な事例もあった。
これもごく一部にすぎないだろう。連合総研のアンケートでは20〜30代の2割以上が自分の会社をブラック企業と答えている。その広がりはかなり深刻といえよう。
ブラック企業は社会問題化して久しく、労働行政の対応が後手に回っている印象は拭えない。最前線で取り締まる労働基準監督官が不足し、大幅な増員も見込めない状況という。
だが、労働者から搾取するような経営手法を野放しにはできない。今回のような集中的な立ち入り調査を継続した上で企業名の公表など厳しい姿勢で臨み、まず法律の順守を徹底させなければならない。
これほどまん延しては労働者側も自衛の意識が要る。現在、労働組合の組織率は過去最低の17・7%まで下がっている。労働者同士の横のつながり、労働相談を手掛けるNPOとの連携を深めるのも有効な対策となる。
就職活動する学生も希望する職種などもあろうが、離職率といった情報を冷静に判断する目も養いたい。