信濃毎日社説 ブラック企業 あぶり出して退場促せ

【信濃毎日新聞】 2013.12.24

 2015年春の採用に向け大学生の就職活動が本格化している。

 ネット上で会社情報を集める学生が必ず検索する言葉が「ブラック企業」だ。人件費を抑えるため長時間労働を強いたりパワーハラスメントを繰り返したりして、若者を使い捨てにする会社をいう。

 就職して間もなく体調を崩し、自信喪失や生活苦に陥る若者もいる。厚生労働省が対策に乗り出したものの、ブラックかどうかの見極めは難しい。社会的な関心を高めて、問題企業をあぶり出す必要がある。

 厚労省は9月、ブラックの疑いがある全国5111の企業や事業所に初めて立ち入り調査した。

 その結果、全体の82%で長時間労働や残業代不払いなどの法令違反が見つかった。接客娯楽、運輸交通、保健衛生の業種順に多く、過労死の認定基準である時間外労働月100時間を超す事業所が730もあった。ある企業は社員の7割を管理職扱いとし残業代を払っていなかった。これほど違法労働がまん延しているとは驚きだ。

 ブラック企業のやり方は、大量に採用して能力がないとみなした者から次々に退職させたり、過酷な労働を強いて退職に追い込むのだという。社会人になった途端の“落とし穴”。これでは必要な技術を身につけることもできない。若い人材の消耗は社会的にも大きな損失だ。

 こうした企業が横行する背景には、就職難や不安定な非正規雇用の増加がある。正規採用を逆手にとり弱みにつけ込むのだ。

 学生は口コミやネット上の不確かな情報に頼っている。労働団体やNPO法人、弁護士会などが相談窓口を設けているが、被害情報を共有し、アドバイスする常設の窓口がもっとほしい。

 ブラック企業の見分け方や労働法など自己防衛の知識を教えることも欠かせない。

 厚労省はことし4月から、若者を積極的に雇用・育成する企業にお墨付きを与える事業を始めた。15年春採用の求人票には過去3年間の採用者数と離職者数を明示するよう要請することも決めた。

 今度の調査で違反が分かった企業には是正勧告し、改善しない場合は送検し、社名を公表する方針だ。それでもまだ生ぬるい。あの手この手でブラック企業をあぶり出し、退場させる仕組みづくりが急がれる。

 企業の側にも女性の勤続年数など雇用情報を幅広く公表し、積極的にアピールする姿勢がほしい。

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