読売社説 最低賃金上げ 中小企業への目配りも大切だ

YOMIURI ONLINE 2014年07月31日

 消費を下支えし、デフレを脱却するには、賃金の底上げが重要だ。

 厚生労働省の中央最低賃金審議会が、今年度の最低賃金(時給)の引き上げ幅を全国平均で16円とする目安を決めた。

 2年連続で2桁の大幅アップとなり、最低賃金は平均780円に上昇する見込みだ。この目安を参考に、各都道府県の審議会が地域の実情を踏まえて金額を決め、10月ごろに改定される。

 最低賃金を巡っては、生活保護の給付水準を下回る「逆転現象」が、労働意欲を損なうとして問題視されてきた。現在も5都道県で生じている。

 今回の引き上げで、それがすべて解消される見通しとなったことは、評価できよう。

 最低賃金でフルタイム働いた場合の月収は、平均で2500円程度増える。非正規労働者の増加で、一家の担い手が最低賃金ぎりぎりで働くケースも多い。引き上げの意義は小さくない。

 日本の最低賃金が、先進国の中で低い水準にあるのも事実だ。

 景気の回復傾向を受け、今春闘で大企業を中心に賃上げが相次いだ。しかし、物価上昇に消費増税の影響も加わり、家計の実質的な収入は目減りしている。

 非正規労働者や、中小・零細企業では、賃上げの動きは鈍い。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の恩恵が及んでいないとの不満も強まっている。

 今回の大幅アップは、デフレ脱却を軌道に乗せたい政権の強い意向を反映したものと言えよう。田村厚労相は「昨年並みか、それより良い成果」を求めていた。

 若年層に低賃金の非正規雇用が増え、結婚や子育てをあきらめる人も目立つ。少子化を加速させる大きな要因となっている。最低賃金の引き上げは、人口減対策の観点からも重要である。

 非正規労働者などにも賃上げが波及するよう、官民を挙げた取り組みが求められる。

 心配なのは、最低賃金の引き上げが、中小・零細企業の経営を圧迫しないかという点だ。多くの企業が、円安による原材料価格や燃料費の高騰に直面し、厳しい経営状況にある。

 賃金の引き上げを求めるだけでは、さらなる業績の悪化を招きかねない。従業員の解雇など弊害が拡大する恐れもある。

 政府は、中小企業の実情に目配りし、成長分野への進出を後押しするなど、効果的な支援策に取り組むべきだろう。

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