東京新聞 2014年1月25日
安倍首相が法人税の税率引き下げ検討を指示し、減税先行も許容する考えを示したのは疑問だ。家計に増税ばかり強いるのとあまりに対照的である。法人税が抱える問題にまずメスを入れるべきだ。
日本の法人税の実効税率(国税と地方税の合計)は新年度から東京都で35・64%と、アジア近隣諸国や欧州諸国の20〜30%台に比べ、表面上は確かに高い。経済界などが国際競争力や外国からの投資を呼び込むために10%程度下げるべきだと要望している。
だが、日本の法人税にはさまざまな軽減措置があり、それを温存したままなのはおかしい。
研究開発や設備投資などで実質的に税負担が軽減される租税特別措置は三百七十余りある。総額は一兆円近くで、法人税の2%に相当する額だ。赤字決算となれば、その年だけでなく、赤字額を繰越欠損金として将来の課税所得と相殺できる。不良債権処理で大赤字を出した大手銀行が何年も納税しなかったり、会社更生法を適用した日本航空は九年間で約四千億円の法人税を免れる。
こうした優遇措置を踏まえれば、実際の法人税率は20%台前半との指摘もある。さらに、個人が節税目的で会社を設立し、赤字にして法人税を回避しながら、種々の経費を計上して納税額を低くする、いわゆる「法人成り」の問題もある。赤字法人は七割を超えており、課税も検討すべきだろう。
実効税率が高止まりしているのは、地方税分(東京都の場合11・93%)が高いからで、地方を含めた幅広い議論も欠かせない。
何より納得がいかないのは、企業ばかりを優遇する姿勢である。震災復興のための復興増税は企業だけ前倒しで廃止し、個人の所得税には二十五年間にわたって続く。安倍首相は「企業の収益が上がれば、賃金が上がり、それが消費増となって経済の好循環が生まれる」と説くが、本当にそうか。企業がため込んだ内部留保(現預金)は二百五十兆円を超える。経済規模が日本の二・五倍の米国では百七十兆円程度で、いかに日本企業が賃上げや投資に回さず、内部留保を積み上げたかがわかる。
今後、消費税増税や物価上昇で消費の落ち込みが懸念される。企業支援を通じた賃上げという不透明な手段よりも、所得税減税の方がよほど確かではないか。あるいは内部留保への課税も検討すれば賃金に回るかもしれない。
もっと知恵を絞ってほしい。