日本経済新聞 2014/9/14
労働時間の長さでなく成果で賃金を払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」をめぐり、導入へ向けた議論が労働政策審議会で本格的に始まった。この制度は創造性や企画力が問われる仕事に適している。長時間労働を防ぐ対策を十分に講じながら、制度設計を具体化させるべきだ。
ホワイトカラー・エグゼンプションは原則として週40時間といった労働時間の制限を取り払う。費やす時間が多いほど生産量が増える工場労働などと違い、企画や研究開発などホワイトカラーの仕事は時間に成果が比例しない場合が少なくない。これらに新しい制度を導入するのは合理的だ。
厳格な労働時間の管理を義務づけた現在の労働基準法は工場労働者の保護を念頭においている。経済のソフト化・サービス化に合わせて労働時間の制度も多様にしていくべきだろう。
働く時間を本人の裁量で決められる利点が新制度にはある。効率的な働き方を意識するきっかけになり、1人あたりの生産性の向上が期待できよう。人口減少による労働力不足を補ううえで新制度は意義がある。
一方で労働時間の制限がなくなると、働く時間が際限なく長くなりはしないかという声が労働組合などからあがっている。日本の正社員は仕事の範囲が曖昧なため、この心配はもっともだ。過重労働を防ぐ十分な手を打つことが新制度の導入に欠かせない。
正社員は「何でもやる」ものという日本的な雇用のあり方を企業は改め、一人ひとりの職務内容を明確にすべきだ。社員がメリハリをつけて働ける環境を企業はつくる必要がある。一定の期間内の労働時間に上限を設けるとした政府の規制改革会議の案も、検討課題になろう。
政府は新制度の対象者として年収1000万円以上の高度な専門職という案を示している。だが生産性向上のためにはより多くの人を対象としたい。そのためにも過重労働対策の充実が重要だ。