愛媛新聞社説: 労働「改悪」再始動 人を大切にせぬ成長などない

愛媛新聞 online 2014年09月27日(土)

 経済成長と企業のために労働の質を下げる「雇用改悪」の議論が、再び始まった。

 政府は今月、残業代の支払いなど労働時間規制の適用を除外する「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)」制度導入の検討を本格化させた。来月にも政労使会議を再開し、協議に入るという。

 「長時間労働大国」日本において、労働生産性を上げる必要性は論をまたない。だが「残業時間」ではなく「残業代」を削るのでは本末転倒。経営側が決める「成果」が出るまで何時間働いても残業代が支払われないなら、過重労働に一切歯止めがかからなくなる。労働側にメリットは全くなく、到底認められない。

 WEを安倍政権が持ち出すのは3回目。中身は何も変わらず、むしろ「年収1千万円以上」と限定的だった昨年に比べ「全労働者の10%ぐらいは適用を」(榊原定征経団連会長)と、根拠もなく拡大しかねない。その執拗(しつよう)なまでの大企業、経営者優遇の姿勢には驚くが、根負けして導入を許せば取り返しがつかない。

 「時間に縛られない柔軟な働き方」とのうたい文句も、怪しい。昨年の労働政策研究・研修機構の調査では、WEに似た裁量労働制でも、定時に出退勤を求められる人が4割に上り、遅刻したとして賃金カットされる例もあった。みなし管理職をはじめ、自分で業務量や勤務時間を差配できる労働者は少ない。多様な働き方はあっていいが、労働者側が選べなければ単なる待遇切り下げにすぎず、就労意欲が下がるだけだろう。

 政府や企業がまず取り組むべきは労働環境、待遇の改善である。過重労働に国が厳格な歯止めをかけ、長時間労働防止策を使用者に義務づけなければ、過労死・過労自殺は減らず、政権が目指す女性の「活用」や、子育てと仕事の両立も進むはずがない。

 2014年版労働経済白書は、企業や経済の成長に「個々人のやる気を引き出す取り組みが欠かせない」と強調。社員の意欲が高い企業は従業員が定着しやすく利益率も高い―との調査結果も示した。

 就労意欲を高められないのは、企業の人材マネジメントの不備に他ならない。投資家の評価や、短期的な株価を重視する「株主資本主義」を早く脱却し、人材への投資、育成に力を注ぎ直さなくては、日本は早晩行き詰まろう。

 しかし逆に、特許庁は社員の発明に関する特許権の帰属について、現行の社員から会社に変える方針を示した。また、人を代えれば同じ業務を無期限で派遣に任せられる労働者派遣法改正案も、臨時国会で再び提出される。政権が唱える「経済の好循環」も企業の繁栄も、人を踏みつけにしてはあり得ないことに、そろそろ気づいてもらいたい。

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