NHK 時論公論「残業時間に上限 検討へ

2016年07月22日 (金) 
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/249739.html?utm_int=detail_contents_news-link_001&utm_int=detail_contents_news-link_001

働き過ぎ、ニッポン!

先進国で最悪レベルと言われるのが、日本人の長時間労働です。
その長時間労働を減らすために、最も必要とされる対策に政府が、ようやく取り組むことになりました。
事実上無制限となっている残業時間に、ハッキリと上限を決めて制限する、という対策です。
厚生労働省が、近く、有識者による検討会議をスタートさせる予定です。
実現すれば日本の労働時間法制の大きな転換となります。

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【 何が問題か? 】
そもそも、日本ではなぜ、長時間労働に歯止めがかからないのでしょうか?
どこに問題があるんでしょうか?
そして、労働時間に上限を決めるとなると、その水準や、対象となる業種をめぐって、利害が複雑に絡み合うことが予想されます。調整は大変な作業になると思います。
そして、長時間労働の是正がうまくいくかどうかは残業を前提としない仕事のあり方や、賃金の水準など、今後の働き方改革全体を左右する、重要な課題となるとみられます。

【 長時間労働の実態 】
まず、長時間労働の実態を見てみます。

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日本は、欧米諸国と比べて、長時間、働いている人の割合が多くなっています。
例えば、週に49時間以上、働いている人の割合は、日本は、21点7%にのぼります。
それに対して、アメリカは、16点4%、イギリスは、12点3%。
フランスやドイツは、10%余りですから、日本は、長時間労働者の割合が、フランスやドイツの、ほぼ倍にのぼる、ということになります。

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こうした長時間労働の結果、何が起きているかと言いますと、過労死、つまり働き過ぎて死んでしまうという、あまりにも過酷な問題です。
2015年度、過労死とされた人は、96人。
前年よりも減っていますが、これは、労災認定で過労死と認定された人の数で、遺族が、過労死の労災請求をした人の数は、283人にのぼっていて、前年より大きく増えているのが現状です。

【 なぜ、長時間労働になるのか? 】
そもそも、なぜ、長時間労働に歯止めがかからないのでしょうか?
どこに問題があるんでしょうか?

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まず、踏まえておきたいのは、労働時間はチャンと法律で決められていて、上限も決められているということです。
労働基準法によって、労働時間は、一日8時間、週40時間までと決められています。
そして、これを“超えて働かせてはならない”と明記されています。
これを「法定労働時間」といいます。

つまり、一日8時間まで、週40時間までが、労働時間の上限であって、これを超える残業は、実は禁止されているわけです。
しかし、これだけでは、なかなか現場がまわらない、ということもあって労使が合意すれば、これを超えて残業が可能になる仕組みになっています。これが、いわゆる「36協定」と呼ばれるものです。
労働基準法第36条に規定されているために、こう呼ばれます。
会社側が、労働組合との間で、この36協定を結べば、残業が可能になります。

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36協定を結んだ場合、許される残業の範囲は、月45時間、年間360時間まで、という基準があるんですが、これには、強制力がありません。
このため、特別な事情がある時には、労使が、さらに「特別条項付」36協定というものを結べば、この範囲を超えて、さらに長時間の残業が可能になります。

つまり、本来、法律は、労働時間の上限を決めているんですが、労使が36協定さえ結べば、事実上、残業がいくらでも可能になる、という現状になっているわけです。
厚生労働省の調査では、企業の半数以上で、この36協定が結ばれていて、特に大企業では9割以上にのぼっています。

【 上限規制 検討へ 】
このように、労働時間の規制が曖昧になっていることが、先進国の中で、突出して多い労働時間、そして、過労死などの背景になっていると見られているわけです。

そこで、ようやく政府が検討することになったのが残業時間に、明確な上限を決める、という対策です。
まず、今年春まとめられた一億総活躍プランの中で、「労使で合意すれば、上限なく時間外労働が認められる、いわゆる36協定の在り方について、再検討を開始する」と明記しました。
そして、これを踏まえて、間もなくまとまる、新たな経済対策の中の、働き方改革として、残業時間に上限を設けることを検討することにしたわけです。
近く、厚生労働省が、専門家による検討会議を発足させる方針です。

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【 課題と論点 】
しかし、いざ、残業に上限を設ける、となると、難しい論点がいくつも出てきます。
たとえば、?残業の上限をどういう水準にするのか?
?様々な業界がある中で、どういう範囲までが適用になるのか?
そして、?罰則などの強制力をどうするか、です。

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まず、?の上限となる時間を、どういう水準にするのか?
まず考えられるのは、先ほど触れましたように、36協定の本来の基準である、残業・月45時間まで。
これに強制力を持たせて、法的な上限にする、ということがまず、考えられると思います。

一方、こうした規制に慎重な経済界などからは、別の声も聞かれます。
それは、残業・月80時間を上限にしてはどうか、というものです。
というのは、過労死の労災認定では、残業・月80時間というのが、一つの判断基準となっていまして、俗に「過労死ライン」などと呼ばれているためです。

残業・月45時間と、残業・月80時間、大きな開きがあります。
働き過ぎをなくし、労働者の健康を確保する、という観点でいけば、過労死ラインの月80時間を上限にする、つまり、過労死ライン直前までは、法的に残業が許される、というのは、水準としては低すぎると言わざるを得ません。
上限規制は、その水準をどういうレベルにするかで、規制そのもの意味が大きく変わってしまいます。重要な問題です。

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次に?の、上限を決めたとして、それをどれだけ広い範囲に適用できるのか?
これも、難しい論点です。
勤務が不規則だったり、公共的なサービスを行っている業種などからは、一律の上限規制ではなく、個別の基準での規制を求めたり、また、適用除外を求める声が出てくることも予想されます。
労働時間に、これまで日本にはなかった明確な上限を設定する以上、様々な業種や現場に応じた、ある程度の融通性を持たせることは必要だと思いますが、あまり個別の事情に配慮しすぎると、上限規制そのものが、事実上骨抜きになるおそれもあります。

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そして?の、どうやって強制力を持たせるか?
せっかく、上限を設けても、守られなければ意味がありません。
そのために、違反があった場合は、罰則を適用したり、36協定を無効にすること、などが考えられます。
企業からすれば、もし、36協定が無効になったり、締結できなくなれば、いっさいの残業を命じることが不可能になりますので、これは影響甚大です。

【 働き方の未来 】
これまで見てきましたように、長時間労働を減らすには、まず、残業時間に上限を設けることが必要ですが、もう一つ、重要な点があります。
それは、残業しないと生活できないという、賃金水準を改善することです。
この両方がセットでないと、長時間労働はなくせません。

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そのためには、最低賃金の引き上げ、同一労働同一賃金に近づける取り組み、そして、残業を前提としない、仕事の進め方や賃金の在り方を労働者と経営者双方で作りあげていくことが必要です。必要なのは、労使双方の意識改革です。

できるだけ多くの人が、短い時間で効率よく働き、仕事も家庭も両立させる。
働く人の健康を守るためにも、そして、人口が減る中で、日本が成長していくためにも、実現させなければいけない、まさに待ったなしの課題です。

(竹田 忠 解説委員)

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