「宿日直の許可基準、現状より改悪は許されず」、全医連 (6/9)

 「宿日直の許可基準、現状より改悪は許されず」、全医連

第12回シンポジウムで公表、「働き方改革に背く」
2019年6月9日 橋本佳子(m3.com編集長)
 
 全国医師連盟は6月9日、都内で開催した第12回シンポジウム「医師の働き方〜先行事例の紹介と、これからの展望」で、「宿日直の許可基準、現状より改悪することは許されない」という声明を公表した。近く厚生労働省が公表予定とされる、宿日直に関する通知をけん制することが狙い。
 
 声明では、現状では宿日直体制で時間外診療を行っている“違法状態”の病院が少なくないと指摘。宿日直基準の見直しが文言や医療行為の現代化に留まるのであれば問題ないが、宿日直中に容認される「通常業務の頻度」と「労働時間の上限」の設定次第では、現状の“違法状態”を合法化することになると問題視している。宿日直基準の緩和は、医師の働き方改革の方向性に真っ向から背くことになる上、これまでの裁判所の判決とも整合性が取れなくなると指摘する。
 
 全医連代表理事の中島恒夫氏は、「介護老人保健施設や介護医療院などは宿日直で対応できるだろうが、2次救急の告示病院だったら、宿日直で対応できるわけはない」と指摘した。「勤務医が過重労働で心身を壊され、過労死したら、誰がその病院に、その地域に後任として赴くのか。だからこそ、仲間を失いたくはない」と述べ、真の医師の働き方改革を進める必要性を訴えた。
 
全国医師連盟代表理事の中島恒夫氏
 宿日直に関する厚労省通知では、宿日直許可を取り消さない宿日直の通常業務の日数や労働時間の上限が示されている。声明が言及した「裁判所の判決」とは、奈良県立奈良病院の2人の産婦人科医が、未払いだった「時間外・休日労働に対する割増賃金」の支払いを求めた裁判での大阪高裁の判決で、通知の基準が大きく影響していると考えられるとした(『「宿直扱い」違法、最高裁不受理で確定』を参照)。
 
 声明では、夜間診療・休祝日診療を宿日直扱いすることで、以下の3つの大きな問題が生じると指摘している。
1.手薄な人員による医療提供体制
2.宿日直業務時間を労働時間にカウントしないことによる長時間労働の隠蔽
3.正当な時間外労働手当を支払わず、些少な宿日直手当で誤魔化している労働基準法違反
 
 シンポジウムでは、「先行事例」として、淀川キリスト教病院(大阪市)産婦人科の柴田綾子氏と、仙台厚生病院(仙台市)の医学教育支援室室長の遠藤希之氏が講演。産業医の林恭弘氏が労基法の基礎知識について解説した(記事は、別途掲載)。
 
 「医師の働き方改革は、病院管理者の働かせ方改革」
 「先行事例」の紹介に先立ち、中島氏は「医師の働き方改革について、勤務医の立場からの議論が少ない」とシンポジウムの企画趣旨を説明。その上で、「医師の働き方改革は、病院管理者の働かせ方改革」として、管理者に改革を呼びかけるとともに、勤務医に対しては自己防衛する必要性を訴えた。
 
 中島氏は、「過労死隠しも犯罪」、「賃金不払いも犯罪」と指摘。「時間外労働や休日および深夜労働に対する割増賃金の未払い」は、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑」、ひいては医道審議会で処分の対象になり得ると警鐘を鳴らし、病院管理者の自覚を促した。
 
 この3月に報告書をまとめた厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」について、中島氏は「現状は働き方改革的に問題なので、現状を合法化する」といった議論が展開されたと見る。病院管理者の代表は、(1)「労基法違反を前提にしなければ病院を経営できない」ことをはっきりと発言する、(2)そのツケを自分の病院の勤務医にではなく、行政に対してぶつけるべきだった、(3)法律違反を前提とした労務体制でしか医療を提供できないのであれば、厚労省にこれまでの失政を認めさせ、国民に謝罪させる――という対応をすべきだったと問題視した。
 
 医師が過重労働になる要因は複数あるとし、主治医制からグループ制(複数主治医制)など運営体制を見直すとともに、勤務医自身も労働契約書の内容を確認するなど「自己防衛策」が必要だとした。研修医、研修修了後に分け、注意点も提示した。
 
(提供:中島氏)

 

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