老後2000万円不足で”副業過労死”する日
7/12(金) 9:15配信 プレジデントオンライン
老後2000万円不足で
※写真はイメージです(写真=iStock.com/roberuto)
「老後に備えるには副業をするしかない」。今年4月から労働基準法が改正され、生活費目当ての残業が禁止になった。ジャーナリストの溝上憲文氏は「収入減を補填するためコンビニなどで副業する人が増えている。本業と合わせた残業時間が1カ月100時間を超えるケースもあるようで、過労死が心配される」という――。
■闇営業で「消えた残業代」を稼ぐサラリーマンが増加中
芸能界の“闇営業”問題が大きな話題になっている。
闇営業という言葉は刺激的だが、事務所を介さずに得た仕事のことであり、サラリーマンにとっての副業と何ら変わらない。
芸能人の中には困窮している人も多く、一部の事務所は闇営業を黙認しているようだ。サラリーマンの世界でも、副業を黙認している企業は多い。しかも近年の働き方改革によって残業時間が減り、収入減にあえぐサラリーマンは増えている。
今年4月には労働基準法が改正され、「時間外労働の罰則付き上限規制」が施行(中小企業は2020年4月)された。不要な残業が強いられにくくなったわけだが、反対に残業代目当ての“生活残業”が許されなくなり、以前よりも生活が苦しくなった人も多いだろう。
■老後2000万円不足問題に備えるには「副業しかない」
加えて、最近では金融庁報告書の「老後2000万円不足問題」が取り沙汰されている。老後に不安を感じているサラリーマンもいるだろう。残業代の減少をカバーし、老後に備えるには「副業しかない」と考えても不思議ではない。
政府が成長戦略実行計画(6月21日発表)で「兼業・副業の拡大」を掲げたことで、今後、副業容認に転じる企業も増え、環境整備も進んでいくと思われる。
もっとも政府の狙いは経済の活性化にある。
優秀な人材が持つ技能が他社でも活用されることで新事業の創出や副業をきっかけに起業する人が増えることを期待しているのだ。
老後2000万円不足で
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■副業は「収入補塡目的」で「パート・アルバイト」が最も多い
実際に副業者、副業志向の人が徐々に増えている。
パーソル総合研究所の調査によると、正社員で「現在副業している」人は10.9%、「過去に副業経験あり」の人の含めると20.8%。副業未経験者のうち今後副業したい人は41.0%に上る。とくに20代の男女がともに55%を超えるなど副業志向が強い。
また「現在副業している」人のうち41.3%が1年以内に副業を開始している「副業の実態・意識調査」(2019年2月12日公表)。
副業の目的のトップは「収入補填目的」であり、就業形態は「パート・アルバイト」が36%と最も多く、次いで「フリーランス・個人事業主」29.4%、「正社員」15%となっている。就業先は飲食店や接客・サービス業が比較的多い。
また、リクルートワークス研究所の調査でも、2018年1年間に副業したことのある正社員は10.4%。就業形態は「パート・アルバイト」が30.4%を占め、副業の目的は「生計を維持するため」が47.4%と約半分を占めるなど、同じような傾向になっている(「全国就業実態パネル調査2019」2019年6月24日)。
本業の収入が少ない、あるいは減ったために生計費を補塡するために、飲食店やコンビニなどで働いているサラリーマン像が浮かび上がる。
■年収ベースでは残業代収入は約120万円だが、副業は約82万円
1週間当たりの副業の平均労働時間はパーソル総研の調査では10.32時間。リクルートワークス研の調査では9.9時間。これもほぼ10時間程度と同じ結果になっている。月に換算すると40時間程度働いていることになる。
ではいったい副業でいくら稼いでいるのか。パーソル総研が分析した平均月収は6万8200円。副業の平均時給は約1652円となっている。この金額は減った残業代に見合う金額なのか。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の2018年の大学・大学院卒の30〜34歳の残業代を含まない平均月給は約31万円。この数字を基に25%割り増しの1時間当たりの残業代を試算すると約2500円になる。副業している人よりも高く、副業している人と同じ月40時間だと、10万円になる。
つまり残業するよりも副業だと月に3万円も低い収入しか得られないということだ。年収ベースでは残業代の収入は120万円だが、副業は約82万円にしかならない。副業だけで従来の年収をカバーすることは非常に難しい。
■年収をカバーのため過労死基準を超える過重労働の副業をする人も
逆に、年収をカバーしようとすると過重労働になりやすい。パーソル総研の調査では本業と合計した1週間の総労働時間が60時間以上の人が27.7%も存在し、70時間以上の人が11.1%もいる。法定労働時間は週40時間だから、週30時間以上の時間外労働となり、月に換算すると120時間超。1カ月の残業時間100時間の過労死基準をはるかに超えている。
ちなみに転職サイト「Vorkers」(現OpenWork)が調査した年代別の月間平均残業時間は20代・30代は2015年に40〜41時間だったが、2018年には28〜29時間に減少している。副業している人の中には本業で残業もしつつ、働いている人もいるだろう。
パーソル総研の調査では副業によるデメリットを感じた人が24.8%もいる。最も多いのは「過重労働となり、体調を崩した」が13.5%、次いで「過重労働となり、本業に支障をきたした」13.0%、「本業をおろそかにするようになった」11.3%の順になっている。
■副業する人が体を壊しても現行の制度では救済されない可能性大
じつは副業している人が体を壊しても現行の制度では救済されない可能性が高いのだ。たとえば過重労働で過労死した場合、現行の労災保険の補償が受けられる過労死認定基準は、時間外労働が2〜6カ月間平均80時間、1カ月100時間を超えて働いていた事実が要件になる。
しかし現状では1つの会社の労働時間でしか判断されず、2社で働き、100時間を満たしていても労災認定されない。また副業先で事故に遭った場合も不利になる。
労災事故が発生し、社員が入院し、休職を余儀なくされた場合、病院にかかる療養補償給付や休職中の休業補償給付が受けられる。
だが、副業先で災害が発生した場合、休業補償給付の給付基礎日額の算定は副業先の給与のみで算定し、本業の給与は加味されない。副業先の給与が低いと少ない金額しか給付されないことになる。
実際に、先のパーソル研究所の調査でも、週の法定労働時間40時間を超える60時間以上働いている副業者が約30%もいれば、いつ労災事故が発生しないとも限らない。兼業・副業の拡大を推進する政府は「所得の増加に加え、スキルや経験の獲得を通じた、本業へのフィードバックや、人生100年時代の中で将来的に職業上、別の選択肢への移行・準備も可能とする」(成長戦略実行計画)と、メリットだけを強調している。
副業している人の労災補償などの法整備を早急に進めるべきだ。そうでなければ残業代の減少で副業を余儀なくされている人は浮かばれない。
ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com
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