教師のイジメはなぜ起きるのか?
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2019/10/10(木) 12:00配信 BEST TIMES
教師のイジメはなぜ起きるのか?
教育現場における問題は、教室以外でも起きている
◆教師間のいじめは多数存在している
神戸市立東須磨小学校で、1人の教員に対して4人の先輩教員たちが激辛カレーを無理やり食べさせたり、目にこすりつけるなどの「いじめ」を続けていたことが発覚したのは、今年(2019年)10月4日のことだった。この事実を公表したのは神戸市教育委員会(教委)だったが、あまりに悪質だったために隠しきれなかったのかもしれない。
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神戸市教委は被害者や加害者の氏名までは公表しなかったが、たちまちネット上で実名が公表され、いじめの現場を撮影した動画までが拡散されてしまった。いわゆる炎上であり、ネット社会の恐さでもある。
炎上したためか、マスコミでも多くとりあげられている。しかし、センセーショナルな事件ゆえに、「東須磨小だけの問題」とか「東須磨小の一部教員だけの問題」で済まされる可能性もある。ワッと騒いでスッと忘れるのも、ネット社会の特徴だからだ。
そうやって早く忘れ去られてしまうことを、実は神戸市教委は期待しているのかもしれない。文部科学省(文科省)にしても、自分のところまで火の粉が飛んでこないうちに下火になることを願っていることだろう。
しかし、これは「東須磨小学校だけのこと」で済ましておける問題ではない。ここまで悪質な例は珍しいかもしれないが、教員同士のいじめは、多くの学校に存在するのが現実だ。いじめまでいかない「嫌がらせ」は横行している、と言ってもいい。
その最大の要因は、学校がストレス社会になっているからである。ストレスの発散手段としていじめや嫌がらせが横行し、さらにストレスを助長させているのである。
◆見えにくい職員室内のストレス
文科省が2018年12月25日に公表した「公立学校教職員の人事行政状況調査」によれば、公立小学校、中学校、特別支援学校などの公立学校に勤める教員で、精神疾患による病気休職者数は2017年度で5,077人いたという。この年度だけでなく、精神疾患による病気休職者が5,000人前後というレベルは2007年度からずっと続いている。
精神疾患に陥る原因は特定されてはいないものの、子どもや保護者への対応で悩んだ末に精神疾患に陥るケースは少なくないといわれている。ただ、それだけではない。東京都内の元教員に訊いたところ、「学校でのパワハラ、特に校長によるパワハラで鬱になってしまう教員は珍しくない」との答えがもどってきた。
「たとえば、教員が書いてきた文章を、それこそ重箱の隅をつつくようにネチネチとチェックして直させる。直してもっていくと、さらにネチネチとやる。前に自分が指示して直させたところにまでダメだしして直させたりなんてことも平気でやります」
もはや、イジメでしかない。同じようなことは、校長だけでなく、先輩教員が後輩教員に対してやるのも珍しいことではないそうだ。まさに、いじめがあふれかえっているのが職員室ともいえる。
やっかいなのは、教員はプライドが人一倍高いことだ。そして、そのプライドは傷つきやすい。「良い子」として順調にやってきた人が教員になっている場合が多く、それだけに高いプライドが傷つきやすいのだ。傷ついて、精神疾患をわずらって休職してしまうわけだ。
休職しないまでも、明らかに精神的を病んでいる教員も多いという。そういう教員は休みがちで、そのシワ寄せが他の教員にいってしまい、ただでさえ忙しいのに、さらに忙しくなってしまう。そしてストレスが溜まることになり、いじめにつながっていく…。
こんなストレス社会になってしまっている職員室が、実は珍しくない。騒ぎになっている東須磨小学校も、そんなストレス職員室である可能性は高い。
ストレス職員室の問題を解決しないことには、東須磨小学校のような例は次々に起きてくる。表面化していないだけで、すでに、小さいが無数の教員によるいじめが学校現場では起きているからだ。
その教員の素顔を、子どもたちは敏感に感じているはずだ。東須磨小学校の場合でも、教員によるいじめの実態を、在校生の子どもがテレビカメラの前で証言したりしているのが、その典型だろう。
◆「こども不在」化する学校
子どもたちが、そんな教員を尊敬できるわけがない。自民党の文部科学部会は今年9月4日の会合で、法令用語を「教員」ではなく「教師」で統一することを検討するよう求めていくことを決めている。教員志望者が減っている現状で、「師」と呼ばれることで人気回復をはかろうという狙いらしいが、そんな小手先のことで誤魔化せるものではない。
裏ではいじめに走る教員の実態を、子どもたちは見抜いている。だから、教員を信用してはいない。たとえ「師」を付けて呼ぶようになっても、それは変わらないはずだ。信用されていないことを実は教員も感じているので、必要以上に怒鳴って子どもたちを従わせようとする。さらに子どもたちは反感をもつ。
これでは悪循環でしかない。当然、学校全体の雰囲気も明るいわけがない。そんなところで楽しく学べるはずもないのだ。それは、ほんとうの成長につながっていかない。
子どもたちが楽しく学ぶためには、まずは教員が変わる必要がある。それには、ストレス職員室をなくすことが大前提となる。
ではなぜ、ストレス職員室になるのか。原因はいたって簡単で、教員が忙しすぎるからである。教員の長時間労働については、さまざまなところで指摘されてきているが、厚生労働省が「過労死ライン」と定めている月80時間の時間外労働をしている教員は小学校で33パーセントを超え、中学校では60%になっている。これは文科省調査(「教員勤務実態調査 2016年度)でのことなので、実態はもっと深刻なはずである。
同じ調査で教員のストレスを分析したところ、平均して高ストレス状態であることが明らかになっている。特にストレス反応が高値だったのは男女ともに20代の教員で、仕事に不慣れなところにもってきての長時間労働にストレスを感じていると思われる。先輩教員によるパワハラも原因になっている可能性もある。
ともかく、教員は高いストレスを抱えるくらい多忙である。それも子どもたちと向き合う、つまり「本業」で忙しいならいざしらず、本業以外の仕事で多忙になってしまっているのが実態でもある。
「教育委員会からのアンケートへの回答など、どうでもいいような書類作成が多すぎる。そんな雑用ばかりで、肝心の子どもと接する時間がとれないのが現状です」
と、小学校の若手教員は嘆く。自分が必要性を感じないような仕事を長時間にわたって強いられるのだから、ストレスも溜まるはずである。そのストレスのはけ口がパワハラとなっていく。
◆お上では改善できない現場の問題
10月4日からはじまった臨時国会では、教員の働き方改革も議題にあがっている。しかし、時間外労働に上限を設けるなど「形」だけのことでしかない。
文科省は今年1月に、教員の時間外労働に月45時間の上限を設けるように指導している。今臨時国会では、これを法律的なものにしようとしている。
しかし、ただ上限を設けてみても意味がない。文科省の示したガイドラインを守るために、強制的に教員を帰宅させる学校が増えている。
「下校時間が決められてしまっているので、朝早くに出勤するか、家で仕事するしかありません。仕事の量は減っていませんからね」
と、中学校の教員は苦笑いする。仕事の「質」が変わらないのでは、上限を設ける「形」だけをいじってみても仕方ないのだ。「形」をつくれば、政治家や文科省は仕事をした気になるのかもしれないが、仕事をしていないのと同じである。むしろ、悪化させることになる。先の中学校教員が続ける。
「早く帰れ、早く帰れ、と校長や教頭がうるさくいってきます。『なんで早く済ませられないんだ』とネチネチやられたりもします」
こんなことが、あちこちの学校で起きている。「時短ハラスメント」という言葉も普通に聞かれるようになってきた。学校にいる時間を短くさせるためのハラスメントが、学校で横行しはじめているのだ。
これでは、まだまだストレス職員室はなくならないだろう。それどころか、さらに深刻度を増すことになる。この問題を解決するには、「形」ではなく、「質」を変える議論こそが必要である。
それをやらなければ、東須磨小学校のような教員による教員へのいじめはなくならないし、学校が子どもたちが成長していける場にもならない。今回発覚した事件を「東須磨小だけのこと」と他人事で済ませてしまうのではなく、「どの学校にもあること」として考えていく姿勢が強く求められているである。
文/前屋 毅