手取りが減っても厚生年金に加入した方が得か (10/10)

手取りが減っても厚生年金に加入した方が得か
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201910/10(木) 11:15配信 プレジデントオンライン

手取りが減っても厚生年金に加入した方が得か
※写真はイメージです(写真=iStock.com/NoSystem images)

先ごろ発表された財政検証を踏まえて、公的年金の制度改正についての議論がなされています。働き方が多様化する中、働く女性が押さえておきたい点についてみていきましょう。

■短時間労働者も要件により厚生年金に加入可能に

 大きな改正案として注目されていること、また働く女性に知っておいてほしいのが、厚生年金の「適用拡大」だ。

 会社員は第2号被保険者として国民年金、あわせて厚生年金にも加入している。フリーランスや自営業者は第1号被保険者として国民年金にのみ加入している。

 対して夫が会社員である専業主婦は第3号被保険者で、保険料を負担することなく、将来、年金が受け取れる。パートなど、短時間働いても、収入が一定未満であれば3号のままで、年金保険料を払う必要はない。

 昨今では、厚生年金に加入する範囲が拡大する方向にある。2016年10月からは、➀1週間の労働時間が20時間以上、?月額賃金8万8000円以上(年収換算106万円以上)、?勤務期間1年以上見込み、?学生以外、?従業員501人以上の企業等、という5つの要件を満たすと、厚生年金に加入となった。

 さらに2017年4月からは、500人以下の企業であっても、➀〜?を満たす場合、労使の合意があれば厚生年金への加入が適用、また国や地方公共団代では➀〜?を満たせば適用、となっている。

 パターンとしては、

・夫が会社員のパート主婦が3号から2号(厚生年金)に
・夫が自営業者のパート主婦が1号から2号に
・短時間労働しているシングルやシングルマザー、シングルファーザーが1号から2号に

 ……などがある。

手取りが減っても厚生年金に加入した方が得か

図表=厚生労働省「第10回社会保障審議会年金部会 参考資料1」より

■厚生年金加入者をどう増やすか

 年金改正案では、これをさらに拡大しようというのが目玉になっている。なぜ拡大するのか、そこには将来受け取る年金を増やすという目的がある。

 厚生年金に加入していた人(2号)は、将来、基礎年金(国民年金)と報酬比例部分(厚生年金)が受け取れるが、1号、3号の人は基礎年金のみ。満額受け取っても、年金額は約78万円(月額6万5000円。2019年度の額)だ。これでは老後の生活が厳しいため、厚生年金に加入する人を増やす、というわけだ。

 どのように拡大していくか、いつから新しい制度を適用するか、具体的な内容が明らかになるのは来年だが、適用拡大になるのはほぼ確実ではないだろうか。現在は501人以上の企業等、という要件があるが、これを改正し、500人以下の企業にも段階的に適用するなどの案が考えられる。

■目先の手取り金額に惑わされない

 厚生年金加入となると、保険料がかかることで手取り収入が減ると、マイナス面に注目する人も多い。例えば月収が8万8000円の場合、保険料は月額1万6104円である。しかし厚生年金の保険料は労使が折半で負担することになっており、本人は8052円を負担すればいい。

 夫が自営業、シングルで短時間労働しているなど、1号の人は国民年金の保険料を支払っている。2号になれば、労使折半でむしろ自身の負担分が安くなるケースも出てくる。1号の人が払う国民年金の保険料は月額1万6410円(2019年度)だが、月収8万8000円なら、厚生年金の保険料(自己負担分)は8052円だから、半分以下の負担で済むのだ(たくさん稼ぐと厚生年金の保険料は高くなる。そして年金額も増える)。

 また厚生年金に加入する場合は、健康保険も変化する。専業主婦は夫の扶養で健康保険に加入しているが、自身で健康保険も加入することになるし、国民健康保険に加入していたシングルなどは、健康保険に変わる。いずれも保険料は労使折半で、本人は半分を負担する。

■結局、最強なのは終身年金である公的年金

 保険料や手取りが減ることが注目されがちだが、私は、厚生年金に加入した方がいい、と考える。理由はもちろん、将来受け取る年金が多くなるから、だ。

月約8000円の保険料を40年間払うと、年金は月額1万8000円、年額10万8600円多くなる(現行の水準で試算された額)。その分を自分で貯蓄すればいい、という人もいるが、厚生年金の保険料は半分を勤務先が出してくれるし、将来は税金からの補塡(ほてん)も含めた額が支給される。そして、それが終身年金であり、一生涯受け取れるというメリットが大きい。 人生100年時代、女性の平均寿命は87.32歳である。自助努力も必要だが、貯蓄や投資で作ったお金は、使っていけばいつか底をつく。対して公的年金は90歳まで生きても、100歳まで生きても支給が続く。これはかなり心強く、公的年金をいかに増やすかが、最も重要といっても過言ではないのだ。

■積極的に加入すれば、頑張って稼ぐようになる

 その意味では、目の前の手取りが減ったとしても、積極的に厚生年金に加入した方がいい。たしかに教育費や住宅ローンの返済などを考えると手取りが減るのは困るが、実は、厚生年金が適用になった人は、もっと頑張って働くようになった人が少なくない。

 過去の適用拡大によって働き方を変えた人は約16%。そのうち、「厚生年金・健康保険が適用されるよう、かつ手取り収入が増える、維持できるよう、所定労働時間を延長した(してもらった)」という人は約55%にのぼる。中には、正社員にしてもらった人(1%)、適用される企業に転職した人(2%)もいる。適用されないように労働時間を減らした人も33%に達するが、大半の人は、厚生年金に加入することに積極的で、手取りが減らないように仕事に力を入れた、というわけだ。

 その傾向は、夫が会社員で、それまで保険料がかかっていなかった3号の人でも同様である。

■病気や障害者になった場合の保障も充実

 厚生年金加入となった人は、前述のとおり、健康保険にも自身で加入することになる。

 健康保険では加入者の収入によって1カ月の医療費の自己負担の上限額が決まる「高額療養費」という制度がある。夫が世帯主で収入が多いと上限額が高めになり、それが妻にも適用されるが、パートで収入が多くない妻が健康保険に加入すると、妻の医療費については上限額が低くなる。一般的な会社員では8万円強が上限だが、月収が26万円以下なら5万7600円が上限だ。

 また健康保険には、国民健康保険にはない、「傷病手当金」がある。病気やケガで継続的に仕事を休んだ場合、4日目から最長1年6カ月まで、収入の3分の2が健康保険から支給される制度である。

 障害者になった場合は「障害年金」の給付も受けられるが、これも、国民年金加入者より、厚生年金加入者の方が手厚い。

 事情が許せば、たくさん稼いで、保険料を払って、しっかり保障を確保する。それが私のおすすめだ。

 

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井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャルプランナー
経済エッセイスト。関西大学卒。厚労省社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。『大図解 届け出だけでもらえるお金』など著書多数。
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ファイナンシャルプランナー 井戸 美枝 写真=iStock.com 

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