【論説】ギグエコノミー、「燃え尽きライフスタイル」はもうやめよう
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200114-00010000-clc_guard-int
2020/01/14(火) 16:31配信
スマートフォンの画面に表示されたウーバーのアプリ(2017年9月22日撮影、資料写真)
【ガーディアン論説委員】
10年前、「ウーバーキャブ」という名の配車サービスが米シリコンバレーで始まった。ブランド名を「ウーバー」に改めた同サービスは今や、世界700都市で9000万人が利用し、成功を収めている。株式上場を果たすと、創業者2人は億万長者になった。一方、配車サービスの運転手たちは大きな代償を払った。労働組合によると、英国のウーバー運転手の時給は平均5ポンド(約720円)で、25歳以上の従業員に対する法定最低賃金の8.21ポンド(約1170円)をはるかに下回る。
英国では全国的に、ギグワーク(不定期に単発の仕事をする労働市場)が目もくらむような速さで成長している。現在、業界規模は2016年の倍以上に拡大し、470万人が働いている。急成長の一因は、新たなテクノロジーだ。人々は携帯電話のアプリを使って、労働力を売っている。ビジネスモデルの核は、次の「ギグ」を探している大勢の「オンデマンド型労働者」に対する、ほぼ即座の依頼に依存するものだ。
不安定な仕事が標準となりつつあり、その結果、失業統計の数字は英国人の実感よりよく見える。ギグエコノミーの興隆の背景に、就業世帯(就業可能年齢の人が全員就業している世帯)の経済状況の悪化があることは明白だ。就業世帯の58%は、政府が定義する貧困線以下にある。1995年は37%だった。
オックスフォード大学のアレックス・ウッド博士らが発表した論文によると、英国におけるギグワークの半数は、食事や荷物の配達、配車サービスの運転など、路上で行われているという。
■労働力のオークション
ギグワークの残り半数は、オンライン上で行われる。Upwork(アップワーク)、Freelancer(フリーランサー)、Fiverr(ファイバー)といったプラットフォーム上で提供される、データ入力やプログラミングなどのデジタルサービスだ。これらのプラットフォームは労働力を売買するオークション会社の役割を果たし、人々はそこでオファーされる仕事に応札する。Upworkを使用している米国人フリーランサーは2017年、2700万ドル(約30億円)の利益を上げた。インドのそれを若干上回る程度だ。世界最大手企業の多くは、より安いコストで仕事を外注するためにこうしたアプリを使用している。
■余暇の商品化
ギグエコノミーにおいて従業員はもはや、法制度に守られていない。既存の法制度は、現在の労働状況に合っていないからだ。英国には現在、3種類の雇用形態がある。正規雇用、非正規雇用、自営業だ。余剰者解雇手当、育児休業、不当解雇に対する保護といった被雇用者の権利をすべて得られるのは、一つ目の形態のみだ。二つ目の形態では、最低賃金が設けられ、労働組合の権利が守られ、有給休暇取得資格があることになっているはずだ。
だが、ギグエコノミーの企業は、そこで働く人たちを自営業者だとみなしており、そうではないと主張するグレートブリテン独立労働組合(IWGB)のような労働組合と対立している。ほとんどの場合において、ギグエコノミーで働く労働者は、自分が従業員だと証明している。強制的に自営業を強いられている労働者を判事が守らなくてはならないなど、ばかげている。英国には労働法がある。とはいえ、それが完全に適応されているわけではない。おかげで、ギグ企業は広範な労働力にこれを適用させることなく、個別の申し立てには対抗しつつ、裁判で支払いを勝ち取った労働者だけに応じるということが可能になってしまっている。
労働者は、基本的な権利を否定されることなく柔軟に就労できるべきだ。雇用の規則が平等に適用され、一貫して施行されてこそ、企業は公平に競争できる。もっと深いレベルで、就労に関して昔から多くの人が目的としていたもの──自由になれるための時間を手に入れること──をギグエコノミーは消し去ってしまっている。代わりに、自分の余暇や所有物を商品化することが良いことであるかのように思うよう誘惑され、強要されている。時間がある? ならばピザを宅配して現金に変えよう。自宅を1週間空ける? ならば貸し出してお金を稼ごう。これでは幸せにはなれない。私たちは、人間関係を大切にしたり、心が豊かになるような娯楽を楽しんだりできるような仕事やキャリアを手にするべきだ。余暇を過ごすことを、商品化できたはずの機会の損失と考えることが、社会的に良いわけはない。このような考え方を拒否しない限り、私たちは人間というより企業のように振る舞うことになるだろう。【翻訳編集】AFPBB News
「ガーディアン」とは:
1821年創刊。デーリー・テレグラフ、タイムズなどと並ぶ英国を代表する高級朝刊紙。2014年ピュリツァー賞の公益部門金賞を受賞。