京都新聞 社説:特定技能制度 選ばれる労働・生活環境に (1/14)

社説:特定技能制度 選ばれる労働・生活環境に
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/123291
2020/01/14(火) 16:00配信 京都新聞

 外国人労働者の受け入れ拡大に向け、昨年4月に創設された在留資格「特定技能」の取得が広がっていない。

 特定技能の資格で在留する人は昨年11月末で1019人にとどまる。資格の取得は増加傾向にあるが、政府が初年度に見込んだ最大4万7550人にほど遠い。

 国内の人手不足対策として急ごしらえした制度で、内外の準備が整わないままの「見切り発車」だったのは否めない。

 特定技能制度は改正入管難民法で設けられ、働き手確保が厳しい飲食、介護など14業種を対象に、外国人の単純労働を認める在留資格だ。ある程度の技能と日本語能力が必要とするが、これまで専門職に限ってきた受け入れ策の転換といえる。

 ただ、政府は「移民政策ではない」とし、定住化を避けようとする政策の矛盾が、外国人労働者の受け入れ環境整備に影を落としているのではないか。

 出入国在留管理庁によると、昨年末時点で特定技能の取得者が多いのは飲食料品製造業の742人、農業の401人、素形材産業の292人の順だ。

 一昨年12月の法成立からスタートまで4カ月弱しかなく、政府間の覚書締結や送り出し国の手続き整備が遅れた。多くの業種の技能試験が昨秋以降にずれ込み、取得が低調な要因となっている。資格の申請も複雑で、審査に時間がかかり、現在約4700人が申請中という。

 新制度は、技術移転を名目として、これまで単純労働の実質的受け皿となってきた「技能実習生」から多くの移行を見込んでいた。在留3年以上で試験なしに資格変更できるが、思うように進んでいない。

 特定技能のメリットが見えにくいという声が聞かれる。

 実習生の多くが3年で帰国する一方、特定技能は追加試験もなく5年間働ける。だが、期限があり、家族の帯同が許されないのは同じ。延長できる資格もあるが対象は極めて限定的だ。

 新制度で報酬は日本人と同等以上とされ、転職も可能になる。半面、人件費増や人材流出を懸念し、資格変更や受け入れに消極的な企業が少なくない。

 技能実習生は昨年前半だけで4万人近く増えて36万人超に上り、むしろ依存を深めている。現場では違法な長時間労働、低賃金など劣悪な労働環境が問題となっており、実習生たちの失踪が続出している。

 そうした技能実習制度も温存したままであることが、新制度による外国人労働者の環境改善への期待と責任をかすませている。

 多くの国で人手不足が問題になり、国際的な人材獲得競争の時代を迎えている。

 新制度では、好条件の都市部へ吸い寄せられる人材をどうつなぎ止めるかが地方の課題だが、国レベルでも同じだ。働き先に選んでもらうには労働条件に加え、家族の帯同を含め生活者としての権利を守り、共生する仲間として支えることが大切だろう。

 安心して働き、暮らせる制度と環境の整備や監視、支援態勢の抜本的な強化が不可欠だ。
 

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