第12回 知って行わざる家事労働のはなし

私が子どもの頃のことです。今は鬼籍に入った母は、私が何か注意をされて「わかっている」と言い訳すると、口癖のように「知って行わざるは知らざるに同じ」(貝原益軒)と言ったものです。今回は母からいかにもそう言われそうな、大切さを知りながら行わざる家事労働の話で恐縮ですが、そこは目くじらを立てずにお読みください。

日本の男性の家事時間は世界の先進国でもっともが短いことで知られています。ここでは他の国の男性とではなく、日本の女性と比較してみましょう。2006年「社会生活基本調査」によれば、1日の家事時間は、「夫が有業で妻も有業」の共働き世帯の場合、男性30分、女性4時間15分です。「夫が有業で妻が無業」のいわゆる専業主婦世帯の場合、男性39分、女性6時間52分です。

ここでは狭義の家事に介護・看護、育児、買い物を含めた時間を家事時間としましたが、狭義の家事(「社会生活基本調査」では、炊事、食事の後片付け、掃除、ゴミ捨て、洗濯、アイロンかけ、つくろいもの、ふとん干し、衣類の整理片付け、家族の身の回りの世話、家計簿の記入、株価のチェック、株式の売買、庭の草とり、銀行・市役所などの用事、車の手入れ、家具の修繕、通勤・通学の送迎など)に限れば、男性の家事時間はほとんどの世帯類型で1日10分か11分です。

男性はなぜこれほどまで家事をしないのでしょうか。一つの答えはかなり前の白子海苔のCMではありませんが、女性は「残業するほど暇じゃない」一方で、男性は「家事をするほど暇じゃない」からです。

NHKの2005年「国民生活時間調査」によれば、男性30代勤め人の平日の労働時間は9時間38分です。これに仕事のつきあいと通勤とを加えれば、仕事関連時間は11時間を超えます。行為者だけの平均をとれば、12時間近くを仕事関連に費やしています。

これでは家事の時間は残りません。日本では働き盛りの男性は、能動的活動時間のほとんどすべてを会社のための時間に奪われて、炊事・洗濯・掃除、育児、買い物などの家事活動に参加する時間はほとんどない状態に置かれています。その結果、家事労働のほとんどすべての負担が女性に押しつけられているのです。

これはよくいわれる家父長制的な性別分業の名残などではありません。これは家事をほとんどしないで、自分の精力もなくなるほど会社に全精力を捧げる男性を正社員のモデルにしてきた日本の高度に発達した資本主義システムが作り出した性別分業です。第7回に書いた日本人のセックスレスライフも、この男性中心の働かされすぎ資本主義の現れにほかならないということができます。

私の場合も、男性正社員並みの働き方をしていて「家事をするほど暇じゃない」と言いたいところですが、そう言うと母から「知って行わざるは……」としかられてしまいそうです。

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