いままで1日の生活時間をライフスタイルの問題としてとらえ、睡眠時間や自由時間についてみてきました。今回からいよいよ労働時間の編に入ります。
例によって数字の話で恐縮ですが、日本の労働者は年間およそ何時間働いてるのでしょうか。政府が国際比較で持ち出すのは厚労省「毎月勤労統計調査」(「毎勤」)の労働時間です。それによれば、2007年の年間1人平均労働時間は、事業所規模5人以上で1808時間、同30人以上で1829時間になっています。
年配の方はご記憶でしょうが、20年前の1988年に、政府(竹下内閣)は、日米経済摩擦の外圧と時短を求める国内世論に押されて、経済運営の政策目標として「年間1800労働時間の実現」を掲げました。その計画は「毎勤」の労働時間(規模30人)をもとに、1987年の2111時間を1992年度末までに1800時間にするというものでした。
この時短目標は期限内に達成されそうもなくなり、1992年に時限立法として制定された時短促進法に受けつがれました。同法は再三延長され、2005年に廃止されてしまいました。その理由は、「年間1800時間」というかつての時短目標が遅ればせながら「実現」されたからというのです。
2007年の年間1808時間は、計算のうえでは、年52週の週休2日、15日の祝日(またはその振替休日)および20日の年次有給休暇(年休)が完全消化された時の年労働日数226日を、1日8時間、残業せずに働いて達成される労働時間です。この場合、年52週で割れば、週労働時間は35時間になります。いまや、日本はヨーロッパの時短先進国並みになったのです。なんとけっこうなことではありませんか。
しかし、だれもこれが現実だとは思わないでしょう。「毎勤」の労働時間が実感からほど遠い理由については二つのからくりがあります。
第1に、数字のうえで生じた時短は、パート・アルバイトなどの短時間労働者の増大がもたらした平均のマジックにすぎません。週35時間未満のパートタイム労働者は、1980年から2007年の間に、390万人から1346万人へと3.5倍に増加しました。単純化していえば、年間2100時間働いていた3人の労働者のうち1人が年間1200時間のパートに置き換えられたとすると、平均労働時間は1800時間に下がります。これに近いことが起きたのがこの間の統計上の労働時間の短縮なのです。
第2に、「毎勤」の1808時間という数字は、賃金の支払われた労働時間を集計していて、「サービス残業」と呼ばれる賃金不払残業の時間は含んでいません。早出、居残りを含め、労働者が実際に就業した時間を集計した総務省「労働力調査」によれば、1人平均年間労働時間(非農林業雇用者)は、2007年で2147時間です。この場合、「労調」と「毎勤」のあいだに339時間の差があります。この差の多くは賃金不払残業に当たると見なすことができます。
ただし、1808時間にせよ2147時間にせよ、性別や年齢を問わない平均の数字にすぎません。次回は性別や年齢にこだわって、労働時間の実態をもう少し詳しく見てみましょう。