近年、製造業で激増した派遣労働者の悲惨な働き方が問題になるなかで、小林多喜二の『蟹工船』が一躍ベストセラーとして甦りました。この小説では周旋屋によって募集されて船上のタラバガニ工場に送り込まれた労働者たちが、ついには過酷な搾取に抗して立ち上がる様子が描かれています。
この手の周旋屋はマルクスの『資本論』にも出てきます。彼は「労働日」の章でこう書いています。
「工場主たちは周旋屋たちの事務所に駆け込み、彼らの気に入った者を選び出し、選ばれた家族たちがイングランド南部から送り出された。これらの人間貨物は、貨物と同じように荷札を付けられて運河や荷馬車で送られた。……この規則的な取引、このぼろもうけの人肉売買は引き続き行われたのであり、これらの人々は、〔アメリカで〕黒人が南部諸州の綿花農場主に売買されたのとまったく同じような規則正しさで、マンチェスターの周旋屋によりマンチェスターの工場主に売買された」。
周旋屋は労働者を工場主に一度引き渡したら、その労働者との関係は切れますが、『資本論』の時代には、労働者を支配下において鉱山や工場に繰り返し送り込んで利益を得る者がいました。戦前の日本で言えば親方とか組頭とか呼ばれた仲介人がそうでしたし、いまで言えば派遣会社がそれに当たります。これについてマルクスは「出来高賃金」の章でこう述べています。
「出来高賃金は、一方では資本家と賃金労働者のあいだへの寄生者の介入、仕事の下請けを容易にする。介入者のたちの利益は、もっぱら資本家の支払う労働価格と、この価格のうち介入者が労働者に現実に手渡す部分との差額(ピンハネ)から生じる。この制度はイギリスでは苦汗制度(Sweating System)と呼ばれている。他方では出来高賃金は、資本家が班長労働者――マニュファクチャーでは組長、鉱山では採炭夫、工場では本来の機械工――と、一個につきいくらといった契約を結ぶことを可能にする。そしてこの価格で、班長労働者自身がその価格で自分の補助労働者の募集と支払いを引き受ける。この場合は、資本による労働者の搾取は、労働者による労働者の搾取を介して実現される」。
これらの例からみても『資本論』の時代、つまり19世紀半ばのイギリスでは派遣労働者型ないし請負労働者型の非正規労働者が労働者のかなりの部分を占めていたことが窺われます。筆者の所属する基礎経済科学研究所は、昨年、創立40周年を記念して、『時代はまるで資本論』(昭和堂)というタイトルの『資本論』入門書を出版しました。こんな時代を早く終わらせるためにも、労働者派遣法の規制強化に向けての抜本改正が急がれます。