『週刊エコノミスト』2007年3月27日号掲載
設楽清嗣・高井晃著『ユニオン力で勝つ』旬報社 1575円
景気回復下の労働者の受難と反撃
ここ二、三年、景気回復がいわれてきた。にもかかわらず、多年にわたる規制緩和とリストラによって、働きすぎと細切れ雇用が広がり、国民の多くが自分と家族の「働き方」に無関心ではおられなくなっている。
労働環境の悪化はいかにして生じたのか。雇用と労働の現場では何が起きているのか。労働者はどのように反撃してきたのか。本書はこれらについて、東京管理職ユニオンの設楽氏と派遣労働ネットワーク・東京ユニオンの高井氏が縦横に語っていて、現状を憂え変えたいと願う者の胸に突き刺さる。
正社員は長時間労働の増大と成果主義賃金の拡大に直面している。三六協定で時間外労働の上限を月二〇時間と決めていても、その後はサービス残業で働かせる。まるでホワイトカラー・エグゼンプションを先取りしたかのように、大半の職場にはタイムカードすらない。
成果主義賃金は相対評価であるために、何割かの人は賃金がダウンする。しかも、だれがダウンしたか分からないために、社員同士が疑心暗鬼に陥る。個人別の管理によって仕事が個別化されて成果を競わされる。そのプレッシャーから、精神を病む人が増えている。
今や労働者の三人に一人、女性では二人に一人は非正規雇用である。使い捨ての直接雇用であるパートに加えて、使い捨ての間接雇用である派遣や請負が増えてきた。果ては相次ぐM&Aのなかで、会社自身も使い捨てられていく。
最近では、使用者責任を逃れるために労働者を個人事業主として働かせる偽装雇用や、実態は派遣として指揮命令をしていながら、派遣受入可能期間終了後の直接雇用への移行義務を免れる偽装請負も少なくない。その結果、「労働者」や「使用者」の概念も曖昧になっている。
圧巻は「ユニオン力で突破する」と題された最終章である。そこでは解雇、賃下げ、就業規則改悪、雇い止めなどに関する一二の具体的ケースが紹介されている。話は千件以上の争議を解決してきた東京管理職ユニオンと派遣・パートなどの非正規労働者の闘いを組織してきた東京ユニオンの経験に基づいているだけに説得力がある。
労働環境は組合がある企業でも悪化してきた。組合に相談を持ち込んでも「個別の問題はやらない」という理由で対応してくれないことが多い。
そういうなかで、本書が語る小さなユニオンの多様な闘いは示唆に富んでいる。「なめるんじゃない。小さな流れも、いずれは大河となる」ことを教えられる一書である。