労働者派遣法改正案の国会提出が間近に迫っています。改正の焦点の一つは登録型派遣の規制です。これに関連して、2009年12月18日開催の労働政策審議会関連部会のに提案された公益委員案骨子は、「常用雇用以外の労働者派遣を禁止する」という趣旨から「登録型派遣の原則禁止」を打ち出しました。
これが額面通りなら評価したいところですが、禁止の例外として、?専門26業務、?産前産後休業・育児休業・介護休業取得者の代替要員派遣、?高齢者派遣、?紹介予定派遣をあげている点はまったくいただけません。いわゆる専門26業務を規制の対象としないというのでは、登録型派遣の原則容認ではないかと言いたくなります。
公益委員案は「専門26業務」という言葉を使っていますが、これがくせもの、というよりくわせものなのです。1985年の労働者派遣法(86年7月1日施行)によって当初、派遣の許可業務として認められたのは、?ソフトウエア開発、?事務用機器操作、?通訳・翻訳・速記、?秘書、?ファイリング、調査と整理・分析、?財務処理、?取引文書作成、?デモンストレーション、?添乗、?建築建物清掃、?建築設備運転・点検・整備、?受付・案内・駐車場管理の13業務でした。施行から4カ月後に3業務、1996年の改定でさらに10業務追加され、「専門業務」であることを理由とした派遣許可業務は合計26業務となりました。
労働者派遣制度は合法化されたときの口実の一つは、経済のサービス化や情報化のなかで、企業、とりわけ巨大企業は高度に専門的な技術、知識および経験を身につけた人材を多数必要とするようになってきたが、そうした人材を社内で雇用する労働者だけで確保することは難しく、専門的な技術や知識を有する者を社外から派遣してもらうことが不可欠である、というものでした。
そういう理屈で、「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」にかぎり、特例的に認められたのが当初の「専門13業務」、のちの「専門26業務」ですが、この理屈は最初から破綻していました。派遣法の成立に先立ってすでに拡大していた派遣的形態の業務処理請負業はビル管理や事務処理などの単純労働を主要な業務としていました。
労働者派遣法の成立時に、派遣許可業務とされた専門13業務のうちには、ファイリング、建築建物清掃、受付・案内・駐車場管理などあきらかに専門的業務とはいえない単純労働業務が含まれていました。事務用機器操作にしても、通常のパソコン操作であれば、今日ではほとんど特別の熟練や技能を必要としなくなっています。
派遣法の成立に誰よりも深く関与した高梨昌氏(信州大学名誉教授)は、最近のインタビュー「派遣法立法時の原点からの乖離」(『都市問題』第100巻第3号、2009年3月)において、当初の派遣対象業務にビルメンテナンスとファイリングという2つの単純労働ないし不熟練労働を入れてしまったことが、専門的な知識や経験をもった業務の派遣を認めるという論理の破綻を招き、「それがのちにポジティブリストからネガティブリストに変わっていく一つの道筋になってしまった」と告白しています。
厚生労働省「平成20年派遣労働者実態調査結果の概要」によれば、派遣労働者が従事する全業務(26業務+8業務+その他)のうち、単純労働とみなすことができる業務に従事する労働者の割合は、「専門26業務」が事務用機器操作(17.4%)、ファイリング(10.0%)、建築物清掃(1.6%)、案内・受付・駐車場管理等(4.4%)で、合計33.4%、「26業務以外の業務」が販売(2.9%)、一般事務(23.6%)、物の製造(24.0%)、倉庫・運搬関連業務(5.9%)、イベント・キャンペーン関連業務(2.1%)で、合計57.9%となっています。
これは複数回答の結果なので、全業務の従事者の割合の合計は135.9%、うち「専門26業務」は60.7%、「26業務以外の業務」は75.2%であることを踏まえて単純業務従事者の割合を計算すれば、業務全体で(33.4+57.9)÷135.9=67.2、「専門26業務」で33.4÷60.7=55.0、「26業務以外の業務」で57.9÷75.2=77.0となります。
つまり、全派遣受入業務の67%、「専門26業務」派遣の55%、「26業務以外の業務」派遣の77%は単純労働であるということです。「専門26業務」も実態は単純派遣が多数を占めているのですから、26業務を「専門」業務とみなして登録型派遣の禁止から除外する論法は成立しません。