厚生労働省の中央最低賃金審議会は地域別最低賃金の今年の引き上げ目安額を全国平均で15円とすることを決めました。これにしたがえば、全国平均の最賃の時給は現在の713円から15円上がり時給728円になります。
これについての日経、朝日、毎日の社説を本ブログの「論説−−私論・公論」欄に転載しておきました。日経は「中小企業の経営圧迫」を理由に、先の引き上げ目安額をもとに地域別最賃を決める都道府県の地方最低賃金審議会に、「慎重を期せ」と呼びかけています。「慎重」という言葉を使っていても、中身を読むと、わずか平均15円の引き上げにも反対せよと主張していることは明らかです。
朝日と毎日は今回の引き上げの目安額に概ね賛成しています。朝日は、「働き手の生活保障への企業責任」と「地域を支える中小企業の支援強化」に触れている点で注目されます。毎日は、東京、神奈川、京都、大阪、兵庫、広島では、目安通りに引き上げられても、生活保護の給付水準より最低賃金が低いという逆転現象は解消されないことを指摘していて目を引きます。
しかし、両紙とも民主党の公約違反は問題にしていません。朝日は、「民主党は昨年の総選挙の政権公約で「全国最低800円」を掲げていた」、毎日は「民主党は公約で「全国平均1000円」を掲げており……」と書いています。たしかに民主党は、「全ての労働者に適用される「全国最低賃金」を設定(800 円を想定) する。景気状況に配慮しつつ、最低賃金の全国平均1000 円を目指す」と公約していました。
ところが、この総選挙公約は、この前の参院選に先立つ今年5月末には2020年までに達成を目指す目標に変更され、事実上棚上げにされました。5月29日のこの連続講座でも述べたように、常識的には、次期選挙までに実現を目指すというのが選挙公約ですから、下野しているかもしれない10年後まで先送りするというのは、公約を撤回したも同然です。
先の朝日、毎日の社説を書いた論説委員は、こうした事情は百も承知のはずです。にもかかわらず、そのことに触れないのは、民主党の公約を次の総選挙までの2、3年のうちに実現するのは困難であり、急激な引き上げはするべきではない、と判断しているからだと考えられます。
現在の全国平均713円を1000円にするには時給を40%引き上げなければなりません。これを1回で実現するのは困難なので、何回かわたって段階的に引き上げるという激変緩和措置はあって当然です。民主党の当初の公約どおり次期総選挙までに、すなわち解散がないとして向こう3年以内に、全国平均を1000円にするには、1年当たりで平均96円(13%)の引き上げが必要です。仮に百歩譲って民主党の先送りを認め、全国平均1000円を2010年までの10年間に達成するとしても、1年当たりでは平均29円(4%)の引き上げをしなければなりません。しかし、今回の引き上げ目安額の平均15円(2%)では、現在の1000円に引き上げるまでに、なんと19年もかかる計算になります。
これでは働けばなんとか生活できる賃金の保障にはほど遠く、また消費振興・デフレ脱却のための賃金の底上げにもなりません。(次回につづく)