週刊エコノミスト 2009年12月29日・2010年1月5日迎春合併号
日本経済新聞社編『大収縮――検証・グローバル危機』日本経済新聞出版社、
1700円+税
昨年9月15日、米投資銀行・証券大手リーマン・ブラザーズは、史上最大規模の負債を抱えて破綻に追い込まれた。本書はその衝撃が津波のように世界に広がった過程を再現した貴重な記録である。
元になったのは、今年4月から9月まで毎週日曜日に「日本経済新聞」に連載された特集である。それにしても50人もの記者が米欧日、さらには露中の金融と産業の現場検証を行い、各国の当局者、経営者、専門家にインタビューをして証言を聞き出す取材陣の厚さと、取材網の広さには圧倒される。
米政府・連邦準備理事会(FRB)は,リーマン破綻の6カ月前、資金繰りに行き詰まった証券王手ベアー・スターンズを、JPモルガンによる買収を支援するかたちで救済した。また、リーマン破綻直後に、保険大手アメリカン・インタナショナル・グループ(AIG)を公的資金で救済した。にもかかわらず、リーマンはなぜ見放されたのか。本書の検証はその謎解きから始まっている。
種明かしは読者のために遠慮するが、主役はブッシュ政権の財務長官にして、ウール街最強の投資銀行、ゴールドマン・サックスの元CEO、ポールソンであるとだけ言っておこう。
もちろん、リーマンショック当時のFRB議長のバーナンキも、その前任で18年間も金融の舵取りをしたグリーンスパンも登場する。その彼が米下院公聴会の証言で、今回の金融危機について「100年に1度の信用の津波」と弁明したことはよく知られている。
本書によれば、リーマン破綻が明らかになるや、そのパニックで「銀行間取引が101年ぶりに機能を停止した」。今は「オバマの会社」になっているGMのワゴナー会長は、リーマン破綻の翌日、同社の創業100年の講演会で、「過去100年で世界は大きく変わったが、この100時間でも一変した」と語った。評者は「100年に1度」の意味を納得しかねていたが、これらの箇所を読んで妙に得心した。
表題にいう「大収縮」は金融や信用で起きただけではない。信用の大収縮が起きるやいなや、ローンに依存する自動車市場でも、需要が前年比で四割も落ち込む大収縮が生じた。
リーマン破綻から1年以上が経過した。しかし経済崩壊の爪痕は癒えず、危機の新たな火種があちこちに燻っている。今年9月のピッツバーグ・サミットは世界的金融規制の見直しで合意した。その行方を見定めるためにも本書は参考になる。