この連載は、週1回の更新を目途にしています。それなのに昨夜に続いて今日また書くのは、今朝の朝日新聞の「インタビュー」欄に出ている三菱総研理事長・前東大総長・東京電力監査役の小宮山宏氏の談話に大きな疑問を感じたからです。
朝日が原発推進論者の小宮山氏を登壇させる意図はここで深くは問わないことにします。とはいえ、同じ今日の朝日が2面で今回の原子炉連続多発損傷事故に関して「廃炉 数十年の険しき道」という記事を載せていることとは、いかにもちぐはぐな感じがしてなりません。
小宮山氏が長いインタビュー記事で語っていることは、はっきりしています。要するに、原発は低炭素社会に向けた「つなぎエネルギー」として21世紀半ばまで必要だ、ただし、これ以上の原子力開発をやるかやらないかはみんなで議論して決めればいい、というのです。
小宮山氏は、今回の事故が起きたのは、原子力の専門家たちが、「タコツボ化」して、「原子力村」をつくり、自分たちだけで固まっってきたからだと言います。そうでしょうか。氏の言は、原子力の専門家よりもっと能天気です。その証拠に、記者の「科学技術が生んだ原発によって〔私たちは〕災禍を受けようとしています。この状況をどう見ますか」という質問には、小宮氏は「私は楽観しています」と答えています。また「科学が生んでしまった暴走を、科学は押さえ込むことができるでしょうか」という質問には、「時間はかかりますが、私は押さえ込めると思っています」と答えています。
ここには見られるの無邪気な楽観論ではありません。これは、電力会社や原子炉メーカーを含む経済界と、政府の原発推進路線のむき出しの擁護論です。小宮山氏は無批判にも「現代社会にエネルギーは必須だし、資本主義は消費が増えるほうがいい」と述べています。しかし、旧態依然とした市場経済を見直さず、消費が増えるがままにしていては、氏の言う「低炭素社会」さえも展望することはできません。
数日前、友人から日本の原発推進に関してなるほどと思わせるメールをもらいました。いわく、「つい先日までは『日本の原発は安全だから、トップセールスでアジア諸国に売る』ことを推奨してきた人々が大勢いました( 昨秋、ベトナムへの原発売り込み成功を自慢した菅首相もその1人です。yutube参照)。昨年末、東京で、多くの企業の方々に再生可能エネルギーに関する講演をいたしました。その際、私のすぐ後で講演をした元外務省官僚のある方は、開口一番『原発は儲かります。1機で100〜200億円も利益があるのですよ』と言われたのには驚きました。そして、日本経済の繁栄の底の浅さを見た感じがしました」。
小宮山氏もこうした経済的利益で動いている人の1人です。あえて最初の肩書きにも書きましたが、彼は東京電力の監査役の1人でもあります。2010年3月期末の「有価証券報告書」によれば、同社の監査役の年間報酬額は、3人で9800万円、1人平均3267万円でした。小宮山氏は非常勤監査役ですから、常勤監査役とは報酬額は異なるでしょうか。そうだとしても、社外役員7人に6600万円を支払っていることから推計して、少なくとも年間1000万円前後の報酬を東電から受け取っていると考えられます。また、小宮山氏は東電の株主でもあり、役員報酬のほかに、600株という少額ながら株主としても同社と利害関係を有していているのです。
「人の世や嗚呼に始まる広辞苑」(橘高薫風)という川柳があります。小宮氏の言も動も、嗚呼、と言う以外には、何ともはや言いようがありません。