第222回 書評 ロナルド・ドーア『日本の転機――米中の狭間でどう生き残るか』

週刊エコノミスト書評 2013年2月19日号

ロナルド・ドーア『日本の転機――米中の狭間でどう生き残るか』ちくま新書、800円+税

米中逆転、核拡散の時代 日本の進むべき道示す
 
著者は1925年生まれで、80歳以降も『働くということ』、『誰のための会社にするか』、『金融が乗っ取る世界経済』など多分野で刺激的な新書を著してきた。

これらに続く本書では、軍事・外交を軸に国際関係と世界平和を論じ、米中の狭間で日本が生き残る道を示すことに挑んで成功している。

使われている文献資料は半端でない。本書に比べると日本のメディアで報じられる国際情報の何と貧弱なことか。本書を読むと国際関係は麻のごとく繋がっていると思う。

話は機知に富んでいて、巻頭では、明治末期のアメリカで日本の近隣併合熱を批判した歴史学者の朝河貫一の言を、米国民の「良識」を代弁するものとして引用し、「私のこの本は、逆に米国の『悪識』を鵜呑みにしすぎて、世界をまっすぐ見ることができなくなった日本人をたしなめることを企図している」と言う。

全体は13章から成る。前半の第1部(第1章から第6章)は、米中関係の展開とそれに規定された日米関係と日中関係を論じている。著者によれば、中国のGDPが米国のそれに追いつくのはそう遠くない。20〜30年後には中国の国力が米国の
それを凌ぐ時代が来るだろう。

ところが日本の政界とメディアは、中国の台頭と米国の衰退を読み違えている。最近では尖閣諸島の領有問題をめぐり「親米憎中」が「一人走り」しているが、現実をもう少し直視すれば、米国への従属的依存は、永遠に有利な選択肢ではないことに気づくであろう。

第2部と第3部(第7章から第13章)は、世界の核問題に目を転じ、1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)を論じる。この条約は米ロ英仏中以外の核兵器の保有を禁止する条約であるが、著者はイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮、そして次はイランと核保有国が広がるなかで、今ではNPTはすっかり綻んでしまっていて、平和維持の手段というより、大戦争の火種となりかねないと説く。

そこで著者は、従来の核不拡散体制の代替案として、署名国のなかの被保護国が核兵器によって攻撃されたら、核保有国が核の報復を代行する関係を世界的に取り決め、核を使えない兵器にする新しい核兵器管理体制を提唱する。

被爆国日本にとってこの新体制の構築は、世界平和への貢献であると同時に、米国との軍事同盟をゆるやかに解消する道でもある。

知日家の老社会学者の執筆意欲と博学多識に驚かされる一冊である。

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