第150回  『就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件』がまもなく出ます

昨年からの宿題であった『就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件』(岩波新書)の執筆と校正をようやく終え、あとは11月18日の発売を待つばかりとなりました。この連続講座の7月24日号で、「原稿に追われているために、この後1ヵ月ほどお休みをいただきます」と書き、9月25日に10年前の9.11について当時のニューヨーク通信を2点再掲したものの、結局、今日まで休載が続きました。ご愛読いただいてきた皆さんにお詫び申し上げます。

これは新書の「あとがき」に書いたことですが、本書のプランがあらまし固まり、企画が通ったのは、2010年10月初旬でした。しかし、その後、資料収集はしたものの、ジュリエット・ショア『プレニテュード――新しい〈豊かさ〉の経済学』(岩波書店、11月末刊行予定)の翻訳(監訳)の仕事と重なり、原稿執筆は今年の夏になりました。3月11日の東日本大震災と原発災害で茫然自失に陥ったあと、怒りにまかせて雑文を書き散らしたことも、本書の執筆を遅らせる一因になっています。

ついでにもうひとつ言い訳をいえば、9月から10月にかけては、新書と翻訳の校正がほとんど重なり、パニックになりそうな状態が続きました。それも終わりましたので、この連載講座もなんとか再開できるようになりました。

今回の新書は、2005年に『働きすぎの時代』(岩波新書)を出したときにお世話になった編集者から言われて、意見交換をするなかで学生の「就職」と「働き方」をテーマに書くことにしました。「新就職氷河時代」と形容される状況が広がるなかで、最近は、学生の就職をめぐる出版物が目につくようにきています。今回、新しい新?書を著すに際してそれらのいくつかを見てみました。私の印象では、就活術に関するハウツウ物か、働くことについての心構えを説いた物はいろいろあっても、なぜこれほど就職環境が厳しくなったのか、また就職後にどんな働き方が待ち受けているのかを説いている本は少ないように思います。

今回の新書は、自分で言うのも自己宣伝めいていてためらわれますが、就職問題を扱った類書と比べて、次のような特色があります。

(1) ハウツウ物にもあるような就職活動のスケジュールや採用までの流れを説明しながら、ここ2、3年の内定率の悪化の実態と背景を示し、大学のキャリア支援や就活ビジネスの動向を含む最近の就職事情をひととおり観察しています。

(2) 学業もそっちのけで「就活」に振り回される学生たちの姿を追うとともに、採用就職活動の早期化・長期化が学生、大学、企業にもたらす弊害とその是正の動きを、かつての就職協定の変遷を交えて検討しています。

(3) 定期採用(新卒一括採用)や初任給などの就職のイロハを分かりやすく説明し、学部3、4年の専門科目の成績を問わない定期採用や、残業賃金を組み込んだ初任給などの問題点を明らかにしています。

(4) 就職とは、雇用とは、派遣とは何かを検討し、雇われて働くことと、時間に縛られて働くことの意味を考え、「正社員」はどのように生まれたのか、若者は労働組合にどんな関心を持っているのかにも目を向けています。

(5) 企業が採用選考において学生に求める力と対比しながら、就職後に若者自身が賢く生き生き働くために必要な4つの力――社会常識、基礎知識、専門知識、労働知識――を示し、とくに社会常識と労働知識について説明しています。

(6) 〈まともな働き方〉を「まともな労働時間」「まともな賃金」「まともな雇用」「まともな社会保障」に分け、なぜ〈まともな働き方〉ができないのか、どうすれば〈まともな働き方〉が実現できるのかを述べています。

(7) 新書にしては図表を多用し、議論を統計データで裏づけるとともに、読み取りにくい数字をビジュアルに示しています。

 本書は大学生の就職とその後の働き方を書いた本ですが、わかりやすさを第一に心掛けました。その点で、大学生はもちろん、高校生や、現に働いている若者にも読んでいただきたいと思っています。なた、働き盛りの世代や、親や教員、採用側の企業関係者も、本書を手にしてくださることを願っていいます。

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