大学を卒業して45年、大学教員になって42年になります。ずいぶん長いあいだ学生と接してきましたが、この2、3年ほど学生の就職環境が悪化したことはなかったように思います。そのことを意識しながら、このほど『就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件』(岩波新書、2011年11月18日発売)という小著を書きました。
「就職氷河期」という用語が広く使われるようになったのは1996年あたりからです。その年から当時の文部省と労働省による「大学等卒業者の就職内定状況調査」が始まっています。今年3月の大学卒業者の就職内定率(就職希望者に占める内定者の割合)は91.0%で、2000年の91.1%を下回って過去最悪を更新しました。文科省の「学校基本調査」でみると、2011年3月の卒業者55万人のうち、進学も就職もしなかった者が9万人、一時的な仕事に就いた者が2万人います。両者を合わせると55万人中の11万人、つまり5人に1人は、定職を見つけないまま卒業し、いわゆる産業予備軍の群れに放り込まれていることになります。
このところの学生の就職難の背景には、リーマンショックよる2008年秋から2009年にかけての未曽有の製造業不況の影響があります。しかし、長期的にみると不況のせいだけではありません。総務省の「労働力調査」によれば、15歳から24歳の若年雇用者は、もっとも多かった1992年の750万人から2010年の465万人に減っています。そこへもってきて、正社員の絞り込みと非正社員への置き換えが強まってきました。
民間企業を対象にした厚労省の最近の調査によると、正社員は61.3(男性75.3、女性41.9)%で、パートその他の非正社員が38.7(男性24.7、女性58.1)%に上っています。年齢別に見ると、非正社員の比率は、15〜19歳では男性91.6%、女性95.8%です。20〜24歳では男性46.7%、女性44.2%となっています。これらの数字には、高校生、大学生のアルバイト従事者が含まれています。それにしても15〜19歳の9割以上、20〜24歳の4割以上は非正社員であるのは驚きです。20〜24歳では、男性のほうが女性より非正規比率が高いことも注目されます。
このように非正社員ばかりが増えて、正社員は大きく減っているにもかかわらず、正社員の仕事口を探す学生の数は増え続けています。しかも、18歳人口は1992年の205万人から2010年の122万人に減っていながら、大学入学者(4年後の卒業者)の数は同じ期間に54万人から62万人へ増えているのです。それは同じ期間に大学進学率が26%から51%(短大を含めると39%から57%)へ上昇したからにほかなりません。
私が大学に入学した1962年の大学進学率はちょうど10%でした。また、この年の男子の就職率は過去最高の89.4%でした。私が卒業した1966年は、前年からの不況の影響で就職率が一時的に下がりましたが、それでも男子は83.5%と、8割を超えていました。2011年3月の男子の就職率は57.0%でしたから、1960年代前半と比べると30%前後下がっていることになります。この差は大学院進学率が高まったということによってはとうてい説明できません。
警察庁によれば、2010年の「就職失敗」を原因とする大学生の自殺者は、前年の2倍の46人(男性40人、女性6人)を数えます。2007年は13人(男性13人)と比べるとたいへんな増え方です。心も凍る「新就職氷河時代」の到来と言われるゆえんです。最近の就職環境の悪化を示すこういう現実を前に、いま大学教員は誰もが心が痛めています。