第153回 実態を把握して有効な対策を講ずれば過労死はなくせます

本ブログの「注目のニュース」にあるように、2011年11月18日、衆議院第一議院会館において、過労死防止基本法制定実行委員会結成総会・100万人署名スタート集会が開かれました。今回は、そこで実行委員長に選ばれた立場から同委員会のHPに寄せた、私の挨拶文を掲載します。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

過労死・過労自殺については、調査されておらず、公式の統計はありません。厚生労働省の発表によると、過労自殺に係わる労災請求件数はリーマンショック後2年連続で過去最高を記録しました。しかし、この背後にあるその何倍、何十倍もの労災申請に至らない過労死・過労自殺や過重労働のよる健康障害の広がりについてはほとんど把握されていません。

 
何事も社会問題の解決の第一歩は実態を知ることです。そのためには、今年4月に発表された日本学術会議の「労働・雇用と安全衛生」に関する「提言」が言うように、「国は、過重労働対策基本法(過労死防止基本法)を制定し、過重労働対策の基本を定め、過重労働に起因する労働者の健康被害の実態を把握し、過労死・過労自殺等の防止を図る」必要があります。

 
過労死(過労自殺を含む)が社会問題化した1980年代末に実施された厚生労働省の脳・心臓疾患による壮年期の「急な病死」の調査データから推計すると、当時の過労死の発症件数は交通事故の死者数と大差がありませんでした。交通事故死者数は1995年でも1万人を超えていましたが、2001年には9000人を割り込み、その後年次第に減少し、2009年には5000人を切るまでになりました。交通事故と過労死とは原因も責任もまったく異なりますが、この車社会において交通事故の死者数が大きく減少したことは注目されます。おそらくこれは、飲酒運転に対する罰則強化、シートベルト着用の義務化、道路交通法の遵守義務の強化、車の安全設計の改善などが進んだ結果だと考えられます。

過重労働の防止についても、国はなにもしなかったわけではありません。しかし、グローバル化や情報化、あるいは波状的リストラや成果主義の浸透といった新しい過重労働環境が広がるなかで、過労死防止のための有効な施策が講じられなかったことが、過労死がなくならず、若い世代に過労自殺が増え続ける事態を招いていると考えられます。

現在の日本には1955年に制定された原子力基本法から今年成立したスポーツ基本法まで38の基本法があります(失効したものを除く)。しかし、労働に関する基本法は一本もありません。労働基準法にすべてを委ねるだけでは、百年河清を俟つにひとしく、過重労働の防止は何年待っても実現する見込みはありません。この現状を一歩でも前に進めるために、過労死防止法の制定を100万人の署名で実現しましょう。

この記事を書いた人