「改正」労働者派遣法が、3月28日、民主・自民・公明などの賛成多数で可決、成立しました。
民主党は2009年6月に発表したマニフェストでは「製造現場への派遣を原則禁止する」と謳っていました。2010年4に民主党が国会に提出した労働者派遣法改正案には、製造派遣だけでなく、仕事がある時だけ派遣される「登録型派遣」も原則禁止するという規定も盛り込まれていました。また、「製造派遣」や「登録型派遣」に多い「日雇い派遣」も、2ヵ月以内は原則禁止するという規定もありました。
しかし、もともと民主党が唱える労働者派遣制度の規制案は、抜本的規制ではなく、一部規制による労働者派遣制度の存続を意図したものでした。その証拠に、当初の改正案が成立しても規制対象になるのは派遣労働者の一部にすぎず、製造派遣も登録型派遣も「専門業務」(いわゆる専門26業務の大半は単純業務)は禁止から除外され、また1年を超える場合は「常用雇用」とみなされて禁止から除外されていました。
民自公の修正合意によって、今回成立した「改正」派遣法は、2010年法案よりさらに後退して、民主党の当初案にあった製造派遣や登録派遣の原則禁止規定は完全に削除され、日雇い派遣の規制も当初の「2ヵ月以内」から「30日以内」に縮小されました。これでは2008年に自公政権が提出した改正法案とほとんどかわらず、公約破りもいいところです。
古い話で恐縮ですが、「おんな船頭唄」に「嬉しがらせて泣かせて消えた」という歌詞があります。民主党の派遣規制案は、労働者派遣制度を憂える者にとっては、もともと「嬉しがる」ほどのではありませんでした。それにしても大量の派遣切りが問題になった直後の総選挙の公約で派遣規制を唱えて、労働者の支持を取り付け議席を掠(かす)めとったのかと思うと、「やると見せかけ騙してやめた」民主党に腹が立ちます。
今回の「改正」派遣法の成立でいまひとつ疑問に思うのは、全国紙が総じて同調的な姿勢を示していることです。28日の朝日新聞朝刊の関連記事は「派遣社員保護へ一歩」と見出しを掲げています。「派遣料金(マージン率)に関する情報公開の義務化」が規制強化の一歩だというのです。マージン率の公開はピンハネ(中間搾取)を明るみに出すために必要ですが、派遣業はもともとピンハネ業なのですから、派遣業自体を規制しなければピンハネを規制することはできません。
朝日のこの記事は、派遣労働者をこれまでと同様に事業者にとっての増減自由な使い捨て労働力として温存することを是認する立場から書かれています。共同通信が今回の「改正」を、「「規制強化」は大幅後退」と伝えたことと比べても、朝日の派遣報道姿勢の後退は見逃せません。製造派遣が急増した労働現場に取材して「偽装請負」を摘発した2006〜07年当時や、連日派遣切りを報じた2008〜09年当時の、あの批判的な報道姿勢はどこに消えたのでしょうか。
この問題に限りませんが、最近は全国紙のふがいなさに比べると、地方紙が健闘が目立ちます。本ブログの「論説−−私論・公論欄」に転載した3月16日の「愛媛新聞」社説「非正規雇用のルール 待遇改善は政治と企業の責務」は、次のような文章で結ばれています。私もこれを今日の結びの言葉とします。
「近年は、新卒者の就職先がいきなり非正規雇用という例も増えた。若年世代が「1年後の生活も見通せない」ような状況では、社会の発展も安定も到底望めない。パートなど非正規労働が多い単身女性は、実に3人に1人が「貧困状態」に陥ってもいる」。「非正規労働者の窮状を放置することは、貧困層の拡大や格差の固定化に直結する。安定的な雇用の確保と待遇の改善は、政治と企業の責務であり、喫緊の課題であることを決して忘れてはならない」。